レンはよくナンパをされる。
しかしレンはそれが嫌いだった。
その為対応は優しさのかけらもない、かなり冷たいものとなっているのをソラは何度か目撃している。
思わず女嫌いなのか確認したほどには冷たい。
それはともかくとして、こういつもだと大変なんだろうなとソラは思っていた。
どこか他人事のように。
だからだろうか。
(自分の時はどうしたらいいんだろうって考えたことなかったな…)
自分の横につく男性二人を横目にソラは困った表情でため息を吐いた。
一人、街を観光していた時に声を掛けられた。
温和そうな笑顔を浮かべ、街を案内しようかと提案される。
今までの旅でも、街の人が案内を提案してくれること自体は何度かあり、素直にお願いしたこともあった。
しかし今回は、男性二人。
流石のソラも無闇に提案を受けるほど警戒心がないわけではない。
「えっと…申し出は有難いんですけど、ごめんなさい大丈夫です!」
相手が気を悪くしないよう、なるべく柔らかく断ってみる。
「遠慮しなくてもいいんだよ」
「そうそう。いいところ教えてあげるから」
やんわりとした断りは効果なかったようだ。
それどころかより歩み寄ってきて、ソラはますます困ってしまう。
(レンみたいな断り方…いや、ダメだ、あれ通用するのレンだけだよきっと)
相手を怒らせてしまいそうだ。
そうなれば、自衛しきれないし逃げ切ることも難しくなるだろうとソラは頭を悩ませる。
「大丈夫、絶対楽しいから!」
痺れを切らしたのか、それとも押し切ればいけると思ったのか男の一人が強引にソラの腕を掴もうと手を伸ばす。
ちょうどその時。
「面白そうな話をしてるな?」
後ろから、聞き慣れた声がしてソラは振り返る。
「レン…!」
予想通り、そこにはレンの姿があった。
図書館へ行っていたはずだけど終わったのかな、とソラは目を丸くする。
レンは冷めた目でこの状況を眺めながらゆっくりと近付いた。
突然現れた人物に男達は少したじろぐ。
「な、なんだお前…」
「悪いけどこいつは先約があるんで」
そう言うとレンはソラの肩を掴み、そっと自分の方へと引き寄せる。
ソラから驚いたような声が聞こえた。
「他、当たってくれ」
そう普段と変わらない様子で話すレンの表情をソラからは見ることが出来ない。
ただ、しっかり確認出来たであろう男達の顔が引き攣るのは分かった。
しどろもどろになりながらその場を慌てて去る姿をソラは呆然と見送る。
しばらくしてレンはため息とともにソラの肩を離した。
「…大丈夫か?」
「う、うん。ありがとう、助けてくれて」
「厄介なのにつきまとわれてたな」
率直な言い方にソラは苦笑いを返した。
「やっぱり断るのって大変だね。よくレンのは見てたけど、まさか自分がこうなるとは思わなかったよ」
何気なくそう言えば、レンの目が微かに丸くなる。
「…ソラ」
「うん?」
「お前はもっと警戒心を持った方がいいな」
「え!あ、うん、そうだね。気をつけます!」
淡々と言われてしまい、慌てて返事をすると呆れた表情を返された。
「で、街は観光出来たのか?」
「えーと、少しだけ」
「…分かった、続き付き合う」
レンの言葉が意外だったのかソラは驚いた表情をする。
「いいの?」
「いいよ、俺の用は終わったし。またあんなんにあっても嫌だろ?」
「…ありがと、レン」
嬉しそうな笑みを浮かべるソラにレンは肩を竦めた。
じゃあ行こう、と途端に楽しげに歩き出す。
その姿を眺めながらレンは小さくため息を吐いた。
「……自覚がないって厄介なものだな」
ぽつりと呟かれた言葉がソラの耳に届くことはなかった。