「レンー!トリックオアトリートー!」
「……」


意気揚々といったその勢いに本を読んでいたレンは少し面食らったような、呆れたような表情でソラを見た。


「どうしたの?」
「…いや、すごいテンションで来たなって思って」
「ハロウィンだからね!」
「……そう」


そんな反応もソラは気にせずに、期待に満ちた目でレンを見た。


「それはそうと…レン、お菓子をくれなきゃ悪戯だよ!」
「ああ…はい」


そう言って本を閉じると、特に表情を変えないまま、レンはソラへと可愛らしくラッピングされたお菓子を差し出した。


「わぁ、可愛いカップケーキ!…じゃなくて、レン持ってたの!?」


甘いものなんて絶対持ってないと思ってた、と驚くソラに対してあっさりとレンは答える。


「ソラが言い出すのが予想出来たから用意しといた」
「よ、読まれてた…」
「むしろ何で気付かれないと思った」


若干落ち込むソラに呆れた目をしながら突っ込む。


「今度こそ悪戯出来ると思ったのになー…」
「まぁ、無理な話だろうな」
「えぇー…あ、でもこのカップケーキ美味しそう…!」


落ち込んだり、喜んだり、忙しい奴だなと思いながらレンは小さくため息を吐き、本を戻そうと立ち上がった。
本棚の前でふと、何かを考えるかのように目を伏せる。
すぐに顔を上げるとカップケーキを見つめるソラへと近付いた。


「ソラ」
「はい?」
「その言葉、俺も言ってもいいのか?」


ソラは一度きょとんとした顔をしたが、すぐに自信ありげに頷く。


「もちろん。ハロウィンだからね」
「じゃあ…Trick or Treat?」
「…レン、悪戯しようと思ってるんだろうけど甘いね。こんな時のためにちゃんとお菓子を…」


そう言いながらごそごそと服のポケットを探るソラの手が止まる。


「…あれ?」


慌てて服のあちこちを探るが目当てのものは見つからない。


「ない、ない!?嘘、落とした!?」
「…ないんだ?」


ぴたり、とソラの動きが止まる。
油の切れたロボットのようにぎこちない動きでレンを見上げた。


「じゃ、悪戯だな?」


そう話すレンの表情は特に変わっていないのにその雰囲気はやけに楽しそうなものにソラには見えた。



「ソラ、目瞑って」
「…ん!?」


その要求にソラは思わず身構える。


「え…レン、あの、何する気…?」
「目、瞑って?」


ソラの問いに答えることはなくレンは再度同じ言葉を投げかけた。


「…うぅ…」


その有無を言わさぬ言葉にソラは一度目を泳がせたが、諦めて目を閉じた。


「いい子」


ぽつりと呟かれた言葉とともにそっと、レンの手が髪に触れる。


「…っ…!」


顔が近づくのが気配で分かって、ソラはぎゅっとより強く目を瞑った。
鼓動が自然と早くなり、ばくばくとうるさい。


その次の瞬間。


ばし、と小気味のいい音が響いた。


「痛いっ!?」


直後、弾かれた額から痛みが広がっていく。
思わず額を抑えながら目を開けると翠と目があった。


「はい、悪戯終わり」
「デコピンって…」
「想像してたのと違ってがっかりした?」


呆然とするソラにレンはそんな言葉を投げかけた。
どこか面白がってるようだ。


「そっ…んなこと、は…!!」


そう反論するソラの顔は紅い。


「ハロウィンだからって悪戯が過ぎると怒られるかと思って」
「? どういうこと?」
「さぁな」


そう言ってレンは首を傾げて誤魔化し、ぽんとソラの頭を叩くように撫でて部屋を出ていった。


「答えになってない…」


納得のいかないソラは不満げにレンが出ていったドアを見つめる。
と、その時気付く。


「あれ?…あった」


服のポケットから先ほどまで探してもなかったお菓子が出てきた。


「あれだけ探してもなかったのに…」


なんで見つからなかったんだろう
、と不思議がるソラが真相に気付くまであと数分。






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