コーヒーってなんだか大人っぽい。

そう思ってしまうのはレンがいつも飲んでる姿を見ているからだろうな。

美味しいのかな。
私にとっては苦い味の印象しかないのだけれど。
…いや、もしかしたら今なら飲めるかもしれない。

だから密かに決めていた。
次の街に着いたらコーヒーを飲むんだと。


「ソラ、何か飲むか?」

そしてやって来た目的の街。
仕事に関する情報を整理しようかと入った公園にはテイクアウトの飲み物を売っているお店があった。
レンの問いに私は喜んで頷く。

「レン、私コーヒー飲むよ!」

自信満々に答えるとレンは微かに目を丸くする。

「……飲めたっけ?」
「今なら飲める気がする!」
「確実に気のせいだと思う」

呆れた目をされてるような気もするけど、特に気にせずわくわくしながらお店へと向かった。

「ホットコーヒーください!!」
「あー……ホットココア一つ」

勢いよく注文する私の横でされた注文に驚いてそっちを向く。

「え、レンがココア?」
「ま…たまにはな」

レンが甘いものを飲むこともあるんだ。
珍しいなと思いながら、お店の人から厚めの紙コップに入ったコーヒーを受け取る。
溢れないようにされた蓋には飲み口か付いていて飲みやすくなっているみたい。

「なぁ…それ、ブラックだけど…いいのか?」

ココアを受け取りながらレンが怪訝そうな表情でそう尋ねるけど、砂糖やミルク入れたら意味ないもんね。

「いいの!あ、あっちのベンチで飲もうよ」
「……分かった」

ベンチに座って、早速カップを近づける。
ふわりとコーヒーの香りが漂ってきた。
うん、大人な感じがする。

「いただきます!」
「……いただきます」

意気込んで温かいコーヒーを口に含む。

その瞬間、覚えのあるような苦さが口いっぱいに広がった。

「にっがい!!」
「だろうな」

思わず叫んだ私を横目にココアを一口飲んだレンが呆れたようにそう呟く。

いやいや、気のせいだともう一口飲んでみる。
やっぱり苦い。無理。

「うぅ…」
「ほら、もう無理すんなよ」

心が折れそうになっていた時、するりと私の手からコーヒーの入ったカップが抜き取られる。

代わりに持たされたのはレンが持っていたココアだ。

「え?」
「そっち飲んで。ソラ、ココアは好きだろ?」
「好きだけど…え、まさかこれを見越して!?」

だから普段頼まないココアを頼んだのと驚く私にレンはあっさりと答える。

「思ったより甘かったんだよ」

だから飲んでくれると助かる、と特に表情を変えずにそう言われたら断る理由もなくなってしまう。

「分かった……ありがと」
「こちらこそ」

なんだかんだで丸め込まれてる気がしてならないけど、交換したココアを両手で包むように持つ。
慣れ親しんだ甘い香りにほっとしながら、こくんと一口飲む。
甘い、チョコレートの味だ。

「はぁ、美味しー…」
「それは良かったな」

やっぱり甘くて美味しいなぁと自然と笑顔になってしまう。
そんな私を見て、レンは小さく息を吐くと持っていたコーヒーを飲んだ。
その表情は苦さで顰めれられることもなく少し羨ましい。

「………」

ふ、とカップから口を離したレンの手が止まった。

「何かあった?」

私の問いにレンは一度ちらりとこっちを見ると何事もなかったようにすぐ視線を逸らした。

「…いつもより甘い気がしただけ」
「え!?あんなに苦かったのに!?」

それが甘く感じるなんてすごいなぁ。
じゃあこのココア、レンにとっては相当甘かったんじゃ…ともう一口。

「………」

そこでふと気付く。

そういえばこれ、レンもさっき飲んでたんだよね。
それで、そのまま交換して。

……あれ、じゃあもしかしなくてもこれって間接キ、

「ふあっ!?!?…けほっ…」

気づいてしまった事実に動揺して自分でもよく分からない言葉を叫ぶ。
それと同時にココアが気管に入り思いっきり噎せてしまった。

「だ…大丈夫か、ソラ」
「こほっ…へ、平気…ごめん」

そう心配してくれる声が聞こえたけど、レンの顔を見れない。
私の顔も見られたくなくて俯いたまま上げれない。

きっとこれ意識してるの私だけだ。なんかすごく恥ずかしい!!
考えない、考えないようにしよう!

そう心に決めていると、レンが微かに息を吐く音が聞こえた。

「……流石に予想してなかったな」

ぽつりと呟かれた言葉につい、なんのことだろうと顔を上げレンを見る。
何が、と問うとレンは目を伏せ、答えをもったいぶるようにコーヒーを一口飲んだ。

「……ソラがコーヒー飲むって言いだしたこと」
「そんなに意外だったの!?だって、コーヒー飲める気がしたんだよ」

それに…

「飲めたら、私も大人っぽくなるかなって」

実際は無理だったけど。
おずおずとそう言えばレンは少しだけ驚いた表情になった。

「…飲めるからそうとは限らないと思うけど」
「そう、かなぁ…?」

いまいち納得のしていない私にレンは呆れたようにため息を吐く。

「背伸びする必要はないよ」
「……うん」

レンの言葉に返事をしながら、それでも…大人っぽくなりたいと思った。

苦いコーヒーを平然と飲めるくらい。

レンの隣にいてもつり合うような、そんな人に。


…なんでそう思ってしまうのかは分からないけれど。






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