四季は住居にしているビルの屋上、さらにそこにある鉄塔に登って景色を見るのが好きだった。
朝、昼、夕方、夜。どの時間に登ってもまた違った光景が楽しめた。


「今夜は満月かー」


そして今日もまた彼女は寝る前の少しの時間、1人でひっそりと楽しんでいた。
暗い中鉄塔を登るのは危なっかしいが四季には慣れたことだ。
鉄塔に座り、月を眺めながら四季はふと思い出す。


「そういえば、今日の月はなんかいつもと違うって言ってたような…」


夕方のニュースで何か話題になっていた気がするのだが、半分聞き流していたので詳しい内容までは覚えていない。


「うーん…」
「危ねぇぞ、四季」
「あ、壱儺」


月を眺めながら思い出していると下からたしなめる声が聞こえた。
顔を向けるとそこには壱儺がいた。手に何か持っているように見える。


「だってそろそろ昼間には登れなくなっちゃうから、熱くて」
「おめぇな…」


するすると鉄塔を降り悪びれなくそう返すと呆れた顔が返ってくる。いつものことだから気にしない。


「で、わざわざ注意するために来たわけじゃないよね?」
「ああ…今日満月みたいだったから月見酒でもしようかと」
「うわ、似合わないことする」
「うるせぇよ……おめぇも呑むか?」


その問いに四季はきょとんとした顔をした。
四季が酒に弱いことは壱儺も知ってるはずだ。


「え、酒だよね?」
「酒。甘口のおめぇでも呑みやすいやつ」
「ふーん…ならちょっとだけ貰おっかな。酔ったあとは責任持って部屋まで届けてよね」
「この時期は凍死の心配ねぇだろ」
「置いてく気満々か」
「さぁな」


そして壱儺はかすかに笑った。
嘘はついてなさそうだった。



「おお、綺麗なピンク」


屋上のベンチに並んで座り、ガラスのおちょこに注がれた酒の色を見て四季は感嘆の声をあげる。
淡い薄紅色の酒にゆっくりと口をつけた。ふわりと漂う甘い香りに覚えがあった。


「これ苺?」
「ああ」


これなら確かに呑みやすいかもしれない、と四季は再びおちょこを傾ける。


「ペース早いとすぐ酔うぞ」
「はいはいっと、そうだ壱儺」
「なんだよ」


月が目に入って先ほどまでの考え事を思い出した。


「今日の満月ってなんかいつもと違うってニュースで言ってなかった?」


四季の問いに壱儺は考えるように月を見上げた。しばらくしてああ、と声をあげる。


「確か今日は一年で満月が一番小さく見えるって言ってたな」
「へー。よくわかんないね」
「あと、いつもより赤っぽいとか」


壱儺の一言に2人で無言で月を見上げて数秒。


「赤い?」
「見えねぇな」
「だよねー」


少しだけがっかりしながら四季はまた一口呑む。
甘酸っぱい苺の香りが楽しい。

と、ふと思い出した。


先ほどの満月の説明、壱儺の言ったことも確かにあってるのだ。
ただもう一つ言っていることがあったのだ。

赤い月。
またの名をストロベリームーン。
そして、


「……ああ、もう」
「四季?もう酔ったのか?」
「んーん…」


突然肩に寄りかかってきた四季に壱儺は怪訝そうな顔をした。
ちらりとその顔を見て四季は目を伏せる。


苺のように赤い月。
それを好きな人と一緒に見ると永遠に結ばれると言う。


(…まさかね)



それは 偶発的か意図的か。
よく分からないままの答えを聞くことはせず、四季は壱儺の肩に寄りかかったまま静かに目を閉じた。






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