「…あ?」

珍しいものを見た。
そう思いながら、長ソファの半分を占領しつつ丸まって眠る四季に壱儺は眉を寄せる。
四季が付けたのか、部屋はクーラーが効いていて涼しい。
その部屋で安らかに眠る四季は着の身着のままだ。

(…まぁ、バカは風邪引かないっつーし…あ、でも季節的にむしろ引くのか)

しばらく思考を巡らせたあと、壱儺は一度部屋を出た。
やがてどこからか持ってきたタオルケットを適当に四季に被せ、自分はソファの空いたところに座り、依頼書に目を通し始めた。

それから、十数分後。

ぱち、と四季の目が開いた。むくりと起き上がり辺りを見渡す。
その動作で壱儺は依頼書から四季へと目を向ける。

「起きたか」
「……いちな?」
「そうだよ。寝ぼけてんのか?」

ぼーっとこちらを見つめる四季はまだ覚醒しきっていないようだ。声をかければあー、と声をあげながら髪をかきあげた。

「なんか…夢、見てた」
「夢?」
「うん。ちょっと聞いて」

四季自身からそんなことを言ってくるとはよほどすごい夢だったのか、と壱儺は興味が沸く。

「話してみろよ」
「夢の中でさ、私は学校にいるんだよ。しかも先生として」
「おめぇが教師?うわ、似合わねー」

正直な感想を漏らすと四季は軽く睨むが、自覚しているのか特に反論は返ってこないまま話は続く。

「その学校がまたすごいんだよね。なんていうか…ちょっと変わった人達がたくさんいて」
「…とは?」
「身体能力が人間離れした同僚とか魔法使えたりする同僚とか、ツノが生えてたり耳が尖ってたりで確実に種族人間ではないなって感じの生徒がいたりした」
「……」
「なんか、学校に乗り込んできた奴らを圧倒的に叩きのめしてたりしたな、数人で。すごすぎで私あの中じゃ超絶一般人だった」
「…そこ学校じゃなくて軍の施設かなんかたったんじゃねぇの?」

思わず壱儺はツッコんだ。学校はこういうものだとはっきり説明できるほど詳しくないが、そんな能力を持った奴らが集まるようなところではないと確信できる。

「学校だよ。授業したりしてたし」
「そういう問題じゃねぇ」
「楽しいとこだったよ。なんか、校舎ふらふらしてたら放送で呼び出されたり、くだらないことして怒られたりしたけど」
「夢の中でもろくなことしてねぇんだなおめぇ」

その様子が容易に想像出来て壱儺は思わず呆れてしまう。そんな壱儺を四季は一笑して流した。そしてぽつりと漏らす。

「でも、まぁ…なんか…こういうのもいいもんだなーって」

笑みを浮かべながら感慨深い様子の四季に壱儺は思わず口を開く。

「四季」
「はい?」
「…おめぇは、その、なんつーか…」

言葉は出てこなかった。
やはりこいつはいつ怪我をするか分からない、下手すれば命の危険のある生活より、平和で穏やかな生活をどこかで望んでいるのかもしれない。

「勘違いしないでよ?」
「あ?」

壱儺の心の声を読み取ったかのように四季がそう言葉にする。

「確かに先生になってる私は楽しかった、新鮮だった。でも、別にそれが羨ましいとは思わない。だって、今こうしている私も私で楽しいからね」
「…」
「私はどこでだって自分らしく生きてく。夢の中の自分を羨むなんて損でしょ。ならむしろ羨ましがられるくらいに楽しく過ごしてやる」

言い切って四季は至極楽しそうににやりと笑った。

「楽しく、ね…おめぇらしいな」

小さくため息を吐く壱儺にそれにさ、と四季は続ける。

「楽しくてもやっぱりなんか物足りなくて嫌なんだよね。三悧くんや弐弥くんに零慈さん、それに壱儺、あんたがいないと」

壱儺の目を真っ直ぐ見て、あっさりとそう話す四季に壱儺は微かに瞠目した。

「……そーかよ」

ぶっきらぼうに返しながら、壱儺は四季の顔を持っていた依頼書で隠した。

「ちょ、なにすんの!」
「うっせー、起きたんならちゃんと依頼書に目通しとけ」

悪態をつきつつ、四季の見えないところで壱儺は小さく笑った。









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