「すっかり桜も散っちゃって緑になっちゃったねぇ」
もうすぐ5月に入ろうとしているとある日のこと。
窓の外を眺めながら四季はしみじみと呟く。
「散ってから大分経ってるけどな。今更何言ってんだ」
近くのソファに座っていた壱儺は冷たくそう返す。
「いや、ついこないだまで緑の間に薄紅色が混じってて綺麗って思ってたけど、新緑の微妙に色が違う緑っていうの?そういうのも眺めるのも悪くないなー、って思ってさ」
四季の言葉に壱儺は窓の方向を見た。
確かに一言で緑と言っても淡い色から暗い色まで、一つ一つ違う色に見えるその様はとても鮮やかだ。
「まぁ、確かにそうだな」
「これはこれで楽しいよね。ところでさ、壱儺知ってる?」
「あ?」
「桜って、花が散って葉っぱが出たあとって毛虫が大量発生するんだって」
「………らしいな」
雲行きが怪しくなってきた。
そう思いながらも壱儺は一応返事をする。
「で、ここから街までの道って桜すごいじゃん?桜のトンネルーって感じで」
「満開時期は綺麗だったな」
「でも、今毛虫が出るじゃん?」
「………で?」
周りくどい四季に壱儺は一言で発言を促す。
「外、出れない」
「今日買い物当番だろうが、さっさと行ってこい」
絶望的な四季の声に冷たくばっさりと言い放つ。
「無理!地獄だって!」
「大丈夫だろ、本当の地獄よりは楽だ」
「あんた本当の地獄とか知らないでしょ!?」
「ああ。毎年毎年この時期になるとぎゃーぎゃー騒ぎやがって。ここにいる時点で避けられねぇだろうが、ここ山の頂上だぞ」
もう何度目のやり取りだろうか。なんだかんだ毎年恒例な気がする会話を繰り広げながら壱儺はため息を吐く。
普段あんだけ怖いもの知らずな奴がどうして虫がダメなんだろうかと思うのも毎年恒例になっている。
「だから夏は嫌いだよ…!!」
(…そういや、こいつが嫌いなもん大体夏関係だな)
少しだけ関係ないことを思いながら壱儺は呆れた目線を向けた。
「弐弥くんにお願いしてもさ、『全力疾走で行って帰って来ればいい訓練にもなりますね』って笑顔で瞬時に返ってきたよ」
「あいつもやっぱ大概鬼だな」
※結局無理矢理追い出され行くはめになりました