「男の人から女の人へ花を渡すんですか?バレンタインに?」


驚いたように目を丸くしながら、ソラはそう尋ねた。

目的地の途中にある小さな街に着いたのは昼過ぎのこと。
ソラは観光も兼ねて1人で街を見て回っていた。レンは宿で本を読んでいる。

レンガで出来た、可愛らしい家や店は見ていて全く飽きない。
そんな中、ふとどこかからこんな掛け声が聞こえた。


バレンタインに贈る花はいかが、と。


その掛け声で今日がバレンタインだったことを思い出す。しかし、ソラのいた街とは少し風習が違うような気がした。

微かな違和感とともに声のする方へと目をやるとどうやらそこは小さな花屋のようだ。違和感の答えを知るためにソラは花屋に声をかけ、今に至る。


「まぁ、女性から男性へあげたりもすることもあるけど…大体はそうね。旅人さんのいたところでは違うの?」
「私のところでは女の人から男の人にチョコレートを渡してたから…」
「へー。場所によって違うものね」


意外そうな店主の話を聞きながら確かに、とソラも頷いた。


「ここでは花をあげるんですね」
「そうよ。皆花言葉を使って想いを告げてるの」
「花言葉!」


ソラはあまり詳しくはないが、花によって意味があるんだとどこかで聞いたことがあった。


「この街は皆花言葉に詳しくなっていくのよ」
「なんだかいいなぁ…」


花で想いを伝えるなんて、この可愛らしい街に似合ってるな、とソラは笑みを浮かべる。


「なんなら旅人さんもあげたらどう?男の子なんでしょ、一緒にいる子って」
「へっ?」


突然の発言にソラは素っ頓狂な声を出す。そんな様子も気にせずに店主は話を続ける。


「これなんかどう?赤いバラ!あなたを愛していますって意味なんだけど」
「愛!?いや、あの、私達そんな関係じゃあないんで!!」


顔を赤くして慌てて否定するソラに店主は小さく微笑む。


「あら、そうなの?まぁ、バレンタインは日頃の感謝を伝えてもいい日だからね。ならこっちの方がいいかしら?」


そう言って店主が取り出したのは蝶の様な形の花びらを咲かせた小ぶりの花だ。
白に紫がかった縁、中心は黄色と鮮やかながら愛らしさがあった。


「可愛い…」
「ビオラって言うのよ。花言葉の意味は信頼。どう?」


首を軽く傾げながら尋ねる店主にソラは少しだけ悩んだ。
確かにこれなら意味的にも大丈夫だろう。なんだか恥ずかしい気もするが、日頃の感謝を伝えるのはいいかもしれない。


「…これ、貰います」
「はーい」


ソラの返事を聞くや否や店主は何輪かのビオラを小さいながらも可愛らしく包んでくれた。


「旅人さんだから安くしとくわ。素敵なバレンタインを」
「ありがとうございます!」


にっこりと微笑んだ店主にソラはぺこりと頭を下げて花を受け取った。



「…でも、どうやって渡そう」


歩きながら花束を見つめる。
成り行きで渡すことになってしまったが、うまく渡せるか自信はなかった。
とりあえず、宿に戻りながら考えようと結論づけたその時、


「ソラ」
「え」


後ろから、今は宿にいるはずの人物の声がしてソラは驚いたように振り向く。


「レン!?宿で本読んでるんじゃなかったの!?」
「読み終わったから、暇になって出てきた」


相変わらず読むの早いなぁと思ったのもつかの間、ソラははっと気づく。


(心の準備全く出来てない…!)


予想外の出来事に急に鼓動が速くなる。焦りも増してくる。
それでも、先延ばしにはできなかった。


「レン、これ、あげるっ!」
「……俺に?」


突然差し出された小さな花束を見てどこか面喰らったようなレンの様子にソラの恥ずかしさも増す。


「今日バレンタインなの!この街では花を贈るんだって!だから、日頃のお礼にっと思って…!」


俯いたまま、捲したてるように早口になるソラにレンはぽん、ソラの頭に手を置いた。
ソラの言葉が止まる。花束がそっと受け取られた。


「貰っとく。ありがとな」


その言葉にソラはレンの顔を見た。
表情は変わりないが、それでもなんだか穏やかに感じた。
自然とソラは笑顔になる。


「じゃあ…」


そう言ってレンはすっとソラの髪へと手を伸ばす。


「お返し」


レンの手が離れると同時に耳の上辺りの髪に何か挿してある感触がした。
少しだけ迷ったのち、ソラはそれを抜いて正体を確かめてみる。


「チューリップ?」


それは桃色の綺麗なチューリップだった。


「これ、どうしたの?」
「貰った」
「え!?女の人に!?」
「違ぇよ」


慌てるソラにレンはばっさりと返す。


「余ったからって宿で貰ったんだよ。こんなんで悪いけど」
「…ううん、嬉しい。ありがとう」


そして、ソラは再び嬉しそうに笑う。
その様子にレンも微かに表情を緩めた。






(途中で女の人から渡されたりしなかった?)
(あー、白い薔薇渡してくる奴とかいたな。受け取らなかったけど)
(やっぱり…)









ピンクのチューリップ…愛の芽生え
白い薔薇…私はあなたにふさわしい
ビオラ…信頼、誠実、忠実、少女の恋




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