「チョコって最近色んな呼び名があるんだね」
「突然どうした」


買い出しから帰ってくるなり四季から発せられた言葉に、テーブルで雑誌を読んでいた壱儺は怪訝そうな顔をする。


「今日なんの日?」
「今日…あー、なるほどな」


2月14日。確かにそんな話題が出てもおかしくない日かもしれない。


「で、呼び名って?」
「そのまんまの意味だよ。最近は本命や義理チョコ以外にも友チョコとか世話チョコとか、あと逆チョコなんかもあるみたい」
「逆チョコ?」
「男から女にチョコあげるんだってー」


買ってきたものを片付けながら四季は壱儺に説明する。


「よく考えつくもんだね、まったく」
「チョコレート会社の策略だろ」
「率直に言えばそうだけどもさ」


壱儺の言葉に四季は呆れつつ軽く苦笑した。


「あ、でも学生の女の子たちが特設コーナーでわいわいしながらチョコ選んでるのは見てて微笑ましかったよ」
「ああ…おめぇにはまずねぇことだもんな」
「喧嘩売ってる?」


明らかな貶しに四季は壱儺をじろりと睨む。が、否定出来ないのもまた事実だった。


「じゃあなんなら、頑張って君らに手づくりチョコでもプレゼントしましょうか?」
「今日を命日にしたくねぇんだけど」
「そこまで!?」


とてつもなく嫌そうな壱儺に四季は驚きの声を上げる。
自分の料理の腕前がよくないことは自覚していたが、流石に命を奪うほどではないはずだ。
なんて奴だ、とため息を吐きながら四季はポケットに探るように手を入れる。そして、取り出したものを壱儺に軽く投げた。


「あげる」


投げられたものを難なく受け取ってから、壱儺は目を丸くする。


「おめぇ、これ」


壱儺の手の中に収まるそれはまさしく今さっきまで話題に出ていた、今日という日に相応しいもの。


「買い出し中に貰ったんだ。せっかくだからあげるよ」
「ふーん…」


そう言って立ち去ろうとする四季の背中に壱儺は質問を投げかけた。


「で?この場合、チョコの呼び名はなんになるんだ?」
「……」


歩みを止めた四季はチラリと壱儺を見た。
しばしの沈黙のあと、肩を竦めて苦笑する。


「分かんない」


それだけ言って今度こそ去っていた四季を見送ってから壱儺は一口サイズのチョコに視線をやる。


「全く…」


包装には【3倍返し】のメッセージ。
いかにも四季らしい。


飴3個でいいか、と考えながら微かに笑みを零した。








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