どうしよう。


待ち合わせのベンチに座りながら、膝の上に置かれたおしゃれな箱を見つめため息を吐く。
箱が綺麗なだけで中身は決してそれに見合ってない。


今日はバレンタインデー。
シューティングスターのみんなにいつもお世話になってるお礼を込めてチョコをあげようと買ったんだけど。

響には何か特別にあげたいなと思ったのは2月の初め。
いろいろと考えた結果、やっぱり手づくりかなって結論を出したのは1週間前。


でも、私は気づいていなかったんだ。


「…なんでお菓子作れないのに手づくりなんて思ったんだろう」


私はあまり料理上手じゃない。
普段から慣れ親しんでないのが原因なのは分かってるんだけども。

そんな人が急に上手くなるわけもなく。
箱の中にあるトリュフは歪でお世辞にも綺麗とは言えなくて。
それでも数ある試作の中で一番マシなのを選んだつもり。

やっぱりもっと料理を作る機会増やさなきゃダメだよね。
うん、頑張ろう。


って、そうじゃない!


「これ、渡していいの?響に」


今、最大の問題はこれ。

こんな変なお菓子喜んでもらえるの?
一応持ってきたけど、これより市販のものを渡した方がいいんじゃないのかな。
特別扱いってどう考えても悪い意味のになってるよ、これじゃあ。


「うん、やっぱりやめとこうかな」
「何を?」
「ひゃあ!!?」


決めた途端、聞こえた慣れ親しんだ声に思わず大きな声を上げる。
目の前にいた響は私の反応に驚いたように目を瞬いた。


「ひ、響」
「大丈夫か、彩音。ごめん、驚かせるつもりはなかったんだけど」
「ううん、私がぼーっとしてただけだから!」


焦りのあまりベンチから立ち上がってしまう。
膝の上にあるチョコの存在を忘れて。


「あ」
「っと、セーフ」


地面に落ちる寸前の箱は響の手によってギリギリ受け止められた。


「彩音、これって…」


あ、ダメだ。選択肢もうない。


「あの、それ今日バレンタインだから…響にと思って、作ったの」
「え、手づくり!?」


響が目を丸くして驚く。
なんだか嬉しそうにも見えるなぁ。


「早速だけど食べてみてもいい?」
「う、うん」


楽しそうにベンチに座って、響は箱を開け始める。
その隣にドキドキしながら座った。


開けられた中身はやはり綺麗じゃないトリュフ、らしきもの。


「え、えっと、全然上手く出来なくて、その、ごめんなさい」
「え、そんなことねぇよ?」
「無理して食べなくていいからね!」
「大丈夫だって」


私の言葉を軽く流して、いただきます、と言ってから1つを口に含んだ。


ああ、大丈夫かなぁ…!


嫌な顔されたらどうしようと思うと響を見れない。


「美味いよ」
「え!?」


その一言に驚いて響を見る。


「うん、美味しい。それにすっげー嬉しい。彩音からの手づくりチョコ」


そう言って楽しそうに笑った。


「…響って、すごいや」
「え、何が?」
「ううん、なんでもない」


すごいよ。
私まで幸せな気持ちにさせてくれるんだから。








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