「trick or treat?」
「え?」


誰もいない路地、後ろからかけられた今日何度目かの聞きなれない言葉にソラは反射的に聞き返す。
振り返るとそこには黒いフードで顔を隠した子供。声からしておそらく男の子だ。その姿を見てソラはああ、と納得した。

この街では今夜、ハロウィンという行事が行われていた。
様々な仮装を行い、くり抜いたカボチャのランタンに火を灯して収穫を祝うお祭りらしい。
昔は悪霊を追いだすためなどといった理由があったらしいが、今はただの楽しいお祭りとなっていると、ソラは聞いていた。
そして仮装した子供たちは、とある言葉を言ってお菓子をもらって回るのだとも。


「ごめん、はろうぃんのお菓子だよね」


お菓子か悪戯か、この街にきてから子供たちに十分過ぎるほどその言葉を投げかけられているのにそれでも一瞬戸惑ってしまうのは慣れ親しんでいないからだろうか。苦笑しつつ、街の人から貰ったお菓子を渡そうと袋を探る。
だがしかし、


「あれ?」


どれだけ袋を探っても目的のお菓子は見当たらない。


「な、なくなっちゃってた…?」


まだもう少し数があると思っていたが気のせいだったのか、とソラは首をかしげる。


「trick or treat?」


再度投げかけられた問いにソラは困ってしまう。


「…ごめんね、今お菓子持ってないんだ」


申し訳なさそうに謝るが子供の表情は見えない。


「悪戯」
「え?」


子供が不意に発した言葉にソラは目を丸くする。


「あ…そっか、お菓子か悪戯か、だもんね」


今日一日、ずっとお菓子をあげていたため、ソラはまだその悪戯を受けていない。


「悪戯」


そう言って、子供はまるで握手を求めるように手を差し出してきた。
手を握れということだろうか。


(これのどこが悪戯なんだろう…?)


疑問に思いつつも手を伸ばそうとしたその時、


「ソラ」


突然名前を呼ばれ、ソラははっとしたように振り返る。この街でソラの名前を呼ぶ人物は一人しかいない。


「レン?」


振り返った先には予想通りレンがいて。
レンは呆れたようにため息を吐く。


「迷子願望でもあるのか、ソラ」
「ないよ!」


確かに少し迷っていたけども、とソラは口ごもった。


「trick or treat?」


再び聞こえた子供の声。
あ、と声をあげてソラは子供に向き直る。

だから、子供に気づいたレンの表情をソラは見ていない。


「お菓子あげれないから悪戯受けなきゃいけないんだよね」
「…ソラ、菓子ねぇのか?」


うん、と答えようとしてレンの声色がどこか固いことに違和感があった。
レンの方を見ようとする前に、子供から引き離すかのように腕を引かれる。


「わ!?」


バランスを崩したソラはそのままレンにもたれる形になる。


「ちょ、レン!?」
「ん」


ソラの抗議を無視して、レンはお菓子を子供に差し出す。
ちょうど二つ分。


「俺と、こいつの分。これでいいだろ」



子供はしばし無言でそれを見つめていたが、やがてそれを受け取りそのまま向こうへと去っていった。


「行ったか…」
「え、なんだったの?」


もたれたままだった体を起こしながらソラはレンに尋ねる。


「…みんな忘れてるだけでまだ存在するってこと」
「はい?」


答えになっていないような答えに思わず聞き返す。


「ま、気にすんな」
「えー…」
「とりあえず、今日ソラは一人行動禁止」
「え!?」


声をあげたものの、もうお菓子を持ってないし仕方ないかとソラは納得した。



「しかし…苦手なのに影響は受けやすいって」
「何か言った?」
「別に。ほら行くぞ」



そう言って歩き出したレンをソラは慌ててついていく。
こうしてハロウィンの夜はゆっくり更けていった。






back


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -