それから一週間と少し。
「綺麗でしたねー!」
「そうだな」
とある昼下がり、空と蓮は前回行けなかった美術展を観に行ったその帰りだ。
「あの作品、やっぱり似てましたよね、蓮先輩」
「確かに。まぁ…この世界に生きててもおかしくないよな。俺たちがそうだし」
「それもそっか…おしどり夫婦で有名だってあったし、幸せに過ごしてくれてると嬉しいです」
「ああ」
嬉しそうに笑う空に蓮も自然と笑みを浮かべた。
「そうだ、寄りたいとこあるんでしたよね?」
「ん、ペットショップにな」
「ヒメルに?」
空の問いに蓮は頷きつつ、話を続ける。
「いらないかと思ったけど、やっぱり首輪がいるかなと」
「そういえば、ヒメルは首輪つけてませんね」
綺麗になってはいたけど、最初に会った時と見た目は変わってなかったなと空は思い出した。
蓮は微かにため息を吐く。
「あいつ段々活発になってきてるから万が一の為にな…同じ名前だけあって空に似てきてるよ」
「…私そんなに活発ですか?」
「活発じゃない奴が木に登って猫助けようとするか?」
「う…」
何も言い返せなくて空は黙る。
その様子に蓮は小さく笑う。
「ということで選ぶの手伝ってくれ。あいつも雌だし、多分空が選んでくれた方が喜ぶ」
「任せてください!ついでにヒメルにおもちゃ買ってもいいですか?」
「ん、サンキュ」
礼を言って蓮は、あ、と思い出したように声をあげた。
「どうしました?」
「空に聞きたいことあったんだ」
「聞きたいこと?」
なんだろうと空は首を傾げる。
「ソラは本好きじゃなかったよな」
「まぁ、そうですね」
「じゃあ今本が好きになったきっかけって?空は早い段階から昔を思い出してたわけだし、進んで読むようになるとは思えなかったけど」
その問いに空は思わず黙る。
目を逸らして回避しようとするが蓮に通用するはずがない。
観念して空は話し出す。
「思い出したからですよ」
「思い出したから?」
「……レンは読書好きだったでしょ?今も好きかもしれないって思ったんです。だったら私も本に触れる機会を増やせば会える確率が上がるかもしれない…それで、頑張って本を読みだして…気付いたら読書好きになって、ました…」
顔が赤くなるとともに、徐々に語尾が小さくなっていった。
空の話を最後まで聞いた蓮はやがて口元を手で隠して顔を逸らす。
その肩は小さく震えていて、おそらく笑ってるんだと空は思った。
「笑うとこですか!?」
「いやっ…ごめ、…愛されてるなと思って」
「なっ…!?」
率直な言葉に空はますます赤くなって一瞬反論出来なくなる。
「もう、蓮先輩のばかー!」
「本当に悪かったって、許してくれ」
「………手、繋いでくれたら許します」
空の言葉に蓮は一度目を瞬く。
しかし、すぐに微かに笑って、空の片手を優しく握る。
「お安い御用」
「…じゃあ、許します」
そんなやりとりをして二人は互いに微笑んだ。
「行こう」
「はい」
小さな幸せを噛み締めながら、二人はゆっくりと歩きだした。