「…え?」

名前を呼ばれた空は目を丸くする。
驚いてるのも分かる。
それは、蓮は知らない情報だから。

「今、ドロボウって…」
「流石に今世でそれはやめた方がいいんじゃないか」

風の名がついたドロボウ。
それが前世での俺だった。
さっきまで微塵もなかった当時の感情さえも蘇ってきたみたいだ。

あの時はあの時で嫌いではなかったし、後悔は今もしていない。

「…レン…?」

気付いたらしい空は名前を呼ぶ。
かつての俺の名前を。

「ああ」
「思い、出したの…?」
「つい今さっきな。と言っても全部ってわけじゃない。とりあえず、自分のことと…ソラのことだけ」

驚愕の表情で空は口元を手で覆う。
自分自身不思議だったけれど、気持ちは意外と落ち着いていた。
夢のおかげだろう。

「レ、レン…その、大丈夫?気持ちの整理とか…」
「ん、平気。多分、その前に自分で結論を出してたから今はむしろ納得してる」

その言葉に空は安堵したように息を吐く。
今なら納得出来た。

「…そういうとこ、前からだったんだな」

いつも誰かの為に一生懸命だったソラを思い出した。
そうか、俺は前から知っていたのか。
だから気にかかっていたんだ、ソラが無理するのも知っていたから。

「え?」
「いや、なんでも。それより…思い出したからこそ、ソラに言いたいことあるんだ」
「私に…?」

レンが言わなきゃいけないこと。
真っ直ぐ、かつては紅色だった琥珀の瞳を見つめる。

「…ありがとう。探して、見つけてくれて」

俺ともう一度出会ってくれて。

空の瞳からぽつりと涙が流れ落ちる。

「だって、ずっと会いたかったから…もう一度レンに会える為なら、私いくらでも頑張れるよ」

泣きながらも空は笑う。
今度は無理矢理じゃなく本当に嬉しそうに。

無理に笑わずに、泣き虫になってくれたことに少し嬉しく思いながら、そっとその涙を指先で拭った。

「…それで、障害はなくなったと思うんだけど」

空が気にする点はもう心配ない気がするが、空の表情は暗くなる。

「…駄目だよ。だって私は、先輩が好きかどうか分からないから…」

一度決めたら動かないのは変わらないらしい。
空が気付いてないだけなんだよ。

「強情」

呆れながら空の両頬を引っ張った。
よく伸びる。

「いひゃい!いひゃいです!!」

なんだか懐かしいようなやりとりを思い出しつつあっさりと両手を離す。

「空。お前は俺の変わってしまった部分は嫌いか」

そう真剣に問えば、空は瞠目する。

「俺はレンの時と同じところもあるけど違うところも多々ある。空がその部分が嫌だって言うのなら、確かに俺を見ていないってなるけど、どうなんだ?」

レンの時に比べれば、自分でも驚くほど丸くなったと思う。
ソラがそれを受け入れられないと言うのなら仕方がないと思う。
でもなんとなく、答えは分かっていた。

空はなんの迷いもなく答える。

「嫌いなわけない!だって嬉しかったんだよ。レンの時とは違う先輩に気付くたびに」

そこまで言ってぴたりと空の言葉が止まる。

「ちょっと、待って…これって…レンだからじゃ…ない?」
「気付いた?」

レンのことしか好きじゃないのなら分からないなんて答えは出ないと思う。

その事実に気付いた空の顔が真っ赤に染まる。

「…あー…うー…」
「今更照れるか」

呻く姿に一笑し、俺は再び空を抱き寄せた。
心が満たされるような気持ちになる。

「わっ!?」
「…空は俺のこと好きか?」

驚く空に問いかければ、一度びくりと固まる。
ずるいと思ってるんだろうな。

やがてゆっくりと俺の背中に両手を添える。

「………好き。大好きです」

照れたようにそれでもはっきりと告げられた言葉に俺は空を強く抱き締めながら笑った。
ずっと聞きたかった。

「俺もだ。これからもそばにいてくれ、空。今を生きよう、2人で」
「…はいっ…!!」

白い花弁が舞い踊る中、俺を見上げ、満面の笑みで空は答える。
空が俺の幸せを願ってくれていたのなら、俺は空と幸せになろう。

運命なんてものは信じない。
それでもきっと、これから先
何度生まれ変わっても
記憶がなくても
何があっても
俺はこいつを好きになる

そう確信した。





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