「蓮、先輩…」

何故彼がここにいるんだろう。
理由は分からない、いやもしかしたら私と同じような理由かもしれない。

立ち止まっていた蓮先輩はゆっくり歩き出して私はびくりと肩が跳ねる。
顔が見れなくて、俯いてしまう。

蓮先輩は私の少し手前で止まる。

「…こんな綺麗な景色が見えるところがあったんだな」
「…え?」

思いがけない言葉に呆然と顔を上げる。

「この街に来てそれなりに長いけど、初めて知った」
「あ…わ、私もです」

答えながら、先輩がこの景色を見ることが出来て良かったと心のどこかで思う。

「空」
「は、はい…」

蓮先輩は一度目を伏せてから、私をしっかりと見る。

「これが最後でもいいから逃げずに聞いてくれないか」
「……」
「…今から話すのはあくまで推測で何の根拠もない、俺の勘みたいなものだ。もし違ったら笑い飛ばしてくれていい」

先輩が何を話すのか予想出来た。
それが正しくても笑って誤魔化そう。
これで、最後だ。

「……はい」

そう答えれば、蓮先輩は優しく微笑んだ。

「単刀直入に言うと、俺が見ている夢はやっぱり俺の前世なんだと思う」

ああ、やっぱり気付いてしまったんだと、ちくりと心が痛んだ。
顔には決して出さない。

「そして、夢に出てくる誰かは…空、お前の前世なんじゃないかと思った。そしてお前はその時の記憶が今もあると」

蓮先輩は淡々と話を続けていく。

「今日、また夢を見た。今までずっと覚えられなかった誰かの顔はお前だったよ、空。もしかすると俺の願望が入ってたのかもしれない。でも、そいつは泣いていた。俺の幸せだけを願いながらも、そばにいたいと」

思わず目を見開いた。
私が今日見た夢と、レンに言った内容と同じだ。
蓮先輩も見ていたの…?

「ずっと、探してくれていたんだな…」
「私、は…」
「俺の話は間違ってるか?空」

笑い飛ばそうと思った。
間違ってます、私はそんなんじゃないですと。
そうしようと思っていた。

「…っ…!!」

そんな私の意思とは関係なくぽたりと涙が勝手に零れる。
だめだ、笑わないと。
蓮先輩には隠し通すと決めたんだ。

そう思えば思うほどぼろぼろと溢れて拭いても拭いても止まらない。

「ちがっ、これ、は…」
「もういいよ、空」

そっと頭を抱き寄せられ気付いたら先輩の腕の中にいた。
驚いて、あれだけ止まらなかった涙も引っ込む。
懐かしい、ずっと触れたかった温もりだ。

「俺は、ずっと空に辛い思いをさせてきたんだな」

静かにそう呟く蓮先輩の表情は見えない。

「だから…だから言わないと決めてたのに…」

話してすぐに分かってた。
優しいところは変わらないって。
言ってしまえば絶対気にしてしまうと思った。
思い出そうとしても思い出せない辛さを私は何よりも知ってるから。

「…苦しめたくなかったのに…!」
「馬鹿だな」

私を少しだけ強く抱きしめながら蓮先輩は優しく頭を叩く。

「もっと自分にその優しさを分けてやってもいいだろ?」
「そんなこと、ない…」

ずっと自分に、蓮先輩に甘えてきた結果がこれだ。

「俺は、空が好きだ」
「!!」

その言葉に目を見開いて固まる。

「記憶なんか関係なく俺は今の空を好きになった。だから…そばにいて欲しいんだ」

心は嬉しい、と思った。
それは間違いなく本当に。

それと同時に頭は駄目だと考える。
私はそっと手を押して先輩の体から離れた。
もう隠し事は出来ないから正直に想いをぶつける。

「先輩は、思い出したわけじゃない…そして私はきっとどんなに頑張っても蓮先輩にレンを重ねてしまう。なら…一緒にいても、苦しくなるだけだよ」

一度は止まったはずの涙が再び零れる。
私はいつの間にこんなに泣き虫になっちゃったんだろう。

「レンのことは今も大好き。でも、蓮先輩のことはどう思ってるのか分からない…分からないのっ…そんな私が、そばにいるわけにはいかないよ…!」

こんな宙ぶらりんな気持ちのままで、これから先ずっと傷付けていくのは嫌だ。
今もそんな辛そうな表情をさせているのに。

優しく吹いた風が、髪を靡かせていく。
蓮先輩の表情が微かに変わった。
しばらく黙ったままだった先輩は、やがてそっと笑う。どこか嬉しそうに。

「…そんなに嘘ついてまたドロボウにでもなるつもりか?ソラ」





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