久しぶりに前世の私の姿を夢に見た。
視界に入る私の髪は紅い。
きっと瞳も紅いんだろう。
目の前に鮮やかな翠の瞳を持った青年がいた。
彼もまた、あの時の姿のままで。
「…レン…」
その翠の瞳を見ていると自然と涙が零れる。
夢の中でなら許されるかなと私は涙を拭い、目の前のレンに話しかける。
「私ね、レンをもう一度見れたらそれだけで充分だと思ってたの」
私の言葉にレンは少しだけ眉を寄せる。
「関わりがなくても、私のことを思い出さなくても、あなたが一人ではないと分かればよかった」
ただ何よりも願っていたんだ。
「レンが幸せでいてくれるならそれで構わないって。でも…」
でも、違った。
ぼろぼろと涙が零れ落ちる。
「やっぱり、レンが好きだから」
今でももっと、もっと好きになる。
私はなんて欲張りなんだろう。
結局、自分の勝手ばかりだ。
止まらない涙をレンの指がそっと拭ってくれる。
優しさや温もりに触れて気持ちが溢れる。
たとえ夢でも泣いてる姿は見せたくないと精一杯の笑顔を見せる。
「レンのそばに、いたいよ…!」
レンの口が開く。
何を言っているのか理解する前に私の意識は夢から遠のいていった。
「…っ…」
はっと目が覚める。
頬に涙が伝っていく。
目を逸らし続けた自分の本心に気付かされたようだ。
「ダメだよ…」
私がいくらそう願っていても。
それは蓮先輩を傷付けていくだけだ。
もう一度姿が見れた、それだけでも贅沢すぎることだったんだよ。
そう心に言い聞かせた。
夢のことを考えないように過ごしてあっという間に夕方になった。
逃げ出してから数日、私は蓮先輩を避けるように行動していた。
合わせる顔がなくて。
これ以上気付かれて欲しくなくて。
私と違って蓮先輩には今を生きて欲しいから。
「さてと…早く帰ろう」
図書館には寄れないから簡単な買い物を済まして帰ろうと思った。
その時、微かな風が私の髪を撫でていく。
ただの風だ。なのにどこか不思議な感覚がして、つい足を止める。
「……」
黙って、風が流れていく方へ視線を向ける。
家とは逆の方向であまり行ったことのない通りだ。
少しだけ風が強くなる。
まるで道を教えてくれてるみたいだ。
「行ってみよう」
何故かは分からないけど、そうしなきゃと思った。
風が優しく背中を押してくれた気がした。
風に導かれるままに歩いて辿り着いたのは一本の大きな木が立つ高台だった。
木には種類は分からないけど、小さな白い5つの花びらを持つ花が枝先にたくさん咲き乱れていて、その見事さに思わず見惚れた。
「こんなところがあったんだ…」
そっと、誰もいない高台の木の下へと向かう。
そこから夕暮れに染まりつつある街の光景がよく見えた。
「綺麗だな…」
ぽつりと呟く。
昔の私だったら、こんな綺麗な景色はすぐに教えて見せてあげたんだろうなと思った。
今の私にはそれが出来ない、そう思うと心が痛む。
再び、今度は強い向かい風が吹いた。
まるで私の目的地はここではないと言わんばかりに。
風によって出来た花びらの雨が後ろへと流れていって私はそれを自然と目で追った。
私が振り向くと風はすぐに止んだ。
そして、
「空」
彼はそこに立っていた。