「好きです、付き合ってくださいっ!」

聞こえてきた言葉に進もうとしていた足を思わず引っ込める。

いつものように図書館に行こうと公園を通り抜けていた最中、時計台の下での告白シーンに遭遇してしまった。
邪魔者がいたら気まずいだろうと慌てて辺りの木に隠れる。
声が聞こえてしまう範囲だけど、今動いたら気付かれそうで動けなかった。

思わぬ出来事に自分のことのようにドキドキしてしまってそっと様子を窺う。
告白をしている女の子の顔に見覚えがあった。
確か学部は違うけど同学年の子だった気がする。
同じ大学の人にでも告白してるのかな。
相手の方は少し陰になる位置にいて見えなかった。

「悪いけど。好きな奴いるから」

男性の声に私はびくりと肩が跳ねる。
この声の主を知っている。
…蓮先輩だ。

え、今好きな人いるって言った…?

衝撃な事実に頭が混乱しそうだ。
女の子の方も少し驚いたような声をあげる。

「えっ…それってまさか噂になってる子ですか?」
「……」

それは、私のことだろうか。
答えを知りたくても、蓮先輩は答えない。
そこまで答える義理はないと思っているのかもしれない。
しばらくして、蓮先輩は苛立たしげにため息を吐く。

「あんたには関係ないよ」

冷たい声で蓮先輩はそう言った。

「で、でもっ…!」
「俺はお前に全く興味なんかない。持つ気も起きない」

突き放すように、先輩は言い放った。
案の定、女の子は泣きそうな顔で走り去って行った。
その背中を見つめながら、彼はああやって嫌われることで恨みは買っても未練は残させないようにしてるんだなと思った。
酷いことなのかもしれないけど、それが先輩なりの優しさなんだろう。

「覗き?」
「わぁ!?」

突然話しかけられ驚いた声をあげる。
い、いつの間に近くまで来てたんだろう、蓮先輩は。

「ご、ごめんなさい。たまたま通りかかって邪魔しちゃ悪いと思って…」
「…で、どこから聞いてたんだ?」

単刀直入に問われ、答えざるを得ない。

「…多分、ほとんど最初からですね…」

蓮先輩は私のことをどう思ってるのかな。
そんなこと聞けない。
私はその答えを持ち合わせてないんだから。
だから、先手を打って話をずらす。

「先輩はなんで誰とも付き合わないんですか?」
「……」

少しだけ、蓮先輩の目が鋭くなったのが分かった。
目を伏せ微かにため息を吐く。

「……付き合う気がないからだよ」
「いい子そうなら付き合ってみるのもいいと思うんですけど。付き合ってから好きになることだってありますし」

よくもまぁ、思ってもないことをすらすら言えるなと自分に感心する。

「…昔から、誰に好意を持たれても、違うって心のどこかで思ってる自分がいる。なのに相手の好意に応えるのは失礼だ」

ぽつりと小さな声で先輩は言った。
やっぱり優しいなぁ、と泣きたくなる。

「前に、颯に言われた。俺は夢で会う誰かに惚れてるから他の奴を好きにならないんだって」

その言葉に微かに目を見開く。
そんなの、ダメだよ。

「その時、あの夢は俺だけど俺じゃない誰かの記憶、つまり前世なんじゃないかとも言われた」
「前世…」
「もし本当に前世なら、俺はいるかも分からないそいつを必死になって探すべきなんだろう。でも、顔さえ覚えていない…大事な人かもしれないのに。それはそんな薄情な俺は一人で生きていけってことだったのかもしれないな」
「そんなことないです!」

つい叫んで蓮先輩を見据える。
先輩は微かに目を丸くする。

ソラは、そんなことを望んでいないし、思ってもいない。

「蓮先輩は薄情なんかじゃないです。だって、先輩は前世じゃなく今を生きているんだから覚えてなくったってしょうがないんですっ。思い出したって混乱しちゃうだけですし!」

そう、しょうがないんだ。
だから、そんな風に思わないで。

「空…」
「それに、その紅い髪の子のことを覚えていなくても、その子は先輩が幸せにいてくれることを願ってくれてると思います」

私の言葉に蓮先輩は一瞬固まった。
そして再び目を伏せる。

次に顔を上げた時は何か決意めいた顔をしていた。

「それを、なんで知ってるんだ?空」
「……え……?」

何を言われてるのか一瞬分からなかった。
先輩は、何を言ってるの?

「…俺は夢の話は誰かにしたことあっても、そいつが紅い髪だってことは誰にも言ってない」
「あ…」

やってしまった、と思わず口を塞ぐ。
確かに蓮先輩の口からそのことを私は聞いてない。
頭の中が混乱してきて何も考えられなくなる。

「お前は、何か知ってるのか?」

嫌だ、言わないで。
言いたくない、言うわけにはいかない。

「し、知らないっ!偶然です、偶然ですから!」

誤魔化しきれるわけないのにただ否定して首を振る。

「なら…」

蓮先輩の声がやけに頭に響く。

「お前は、俺に誰を見てるんだ?」
「!?」

びくりと体が震える。
蓮先輩は気付いていた。
傷付けたくないなんて思いながら私は、とっくに先輩を傷付けてる。
ずっと、その優しさに甘えてしまっていたんだ。
私はなんて馬鹿だったんだろう。

「ごめんなさいっ!」

罪悪感に耐えられなくて私は逃げ出した。
謝って終わりなわけないのに、最低だ。

最後に見た先輩の顔はどこか困ったような寂しそうな顔をしていた気がした。





back


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -