あの後、晩飯を作って食べて。
寝るには早すぎる時間だったから半分書庫と化している自室からいくつか本を持ってくると空の目が輝いた。
俺も図書館から借りた本を読もうとソファに座る。
遠慮したのかソファ向かいのカーペットに座ろうとする空を、自分の横を叩いてソファに座ることを促せばおずおずと少し離れて座った。
それからしばらく、静かで穏やかな時間が流れる。
ヒメルの相手を適当にやりつつ読書を続けていると微かに視線を感じる。
気付かれないように横目に見れば空が本を読む手を止めてこちらを見ている。
「どした?」
そう声をかけて空を見れば、気付かれないと思ってたのか慌てた表情をしている。
「あの、えっと、その…先輩の瞳が綺麗だなって」
誤魔化そうとしたのだろうが失敗に終わったらしく正直に明かされる。
なんだ、そんなことか。
「ああ…婆さんがドイツの人でどうやら隔世遺伝らしい」
母さん達兄妹はこの色ではないから不思議なもんだ。
そういえば昔、誰がこの色が好きだと初めて言ってくれたんだったか。
おかげで俺はこの色を嫌いにならなかったのに。
「そうだったんですか…」
「でも、そう言ったらお前も…」
色素が薄くてあまり見かけない、そう続けようと思った言葉は空の瞳を見て途切れた。
明るい琥珀色だと思っていたその瞳が一瞬紅く光って見える。
その紅は、夢で見た…
「先輩?」
「…紅…」
「…え?」
思わず呟いてしまった言葉に空の目が見開く。
変なことを言ってしまった。
「ごめん、なんでもない」
それだけ言って本へと視線を戻す。
空も訳を尋ねることはせず黙って本を再び読み始めてくれて俺は密かに安堵のため息を吐いた。
数時間後、ぱたん、と本を閉じる音がする。
読み終わったらしいその表情は満足そうだ。
もうすぐ日付も変わる頃だ、空も眠たくなったのか小さく欠伸をした。
「そろそろ寝るか?」
微笑ましく思ってると、空の顔が微かに赤くなる。恥ずかしかったらしい。
「そ、そうですね!」
「ベッド使っていいよ」
「え、そんな!ソファで寝ますから、私の方が小さいですし!」
「気にすんな。俺はもう少し起きてるからそっちの方が都合がいい」
ソファだと気が散るだろうからと、ごく普通の提案だった。
「…睡眠時間短いんですか?」
「そうだな…昔から結構平気な方」
「ちゃんと、寝てくださいね?」
心配そうに言われ少し驚く。
別に今日は徹夜するわけじゃないんだけどな。
「分かった」
そう返答してほっとしたような空のそばにヒメルがやってくる。
その行動の意味を俺は理解した。
「どうしたの?ヒメル」
「空と一緒に寝たいんだな」
なんせ、この前は邪魔しちゃいけないと止めたから今回はそうしたいんだろう。
「え、そうなの?」
空はヒメルを見ればヒメルは返事をした。
…意思疎通してるな。
「ヒメルの好きにしたらいいよ。まぁ、空がよければだけど」
俺が許可を出すとヒメルはより一層甘えるように空に擦り寄る。
空が嬉しそうに抱き上げた。
「いいよ、一緒に寝よう」
空ならそう言うと思った。
「おやすみ、空」
「…おやすみなさい」
どこか懐かしそうな表情で空は笑みを浮かべた。
ああ、まただなと思えば心の奥が痛む。
空に悟られないようにそっと読みかけの本に再び手を伸ばした。