クランベリー・ラブ | ナノ





「ちょっ、……とっ!!ナマエ!!」



勢い良く開かれたキッチンの扉に調度食器を片付けていたナマエが驚いて一瞬飛び跳ねた。






「ソフィア!?」


拭いていた食器を置いて流し台から顔だけ出すと、荒く呼吸をしながらふるふると怒りで肩を震わせているソフィアが仁王立ちしていた。


一体どうしたのかと聞こうと身にまとっていたエプロンで両手を拭いてソフィアに近付いて俯いてしまっている彼女の顔を覗き込んだが怒りのあまり真っ赤に染まっていた。



「どうしたの、ソフィア。何があったの?」
「どうしたの、じゃないよ!あいつ誰なの!いきなり人の部屋に入ってきて…!!!」
「あいつ?」



ドアの向こうを指さして怒鳴り散らすソフィアに首を傾げると、ひょっこりと顔を出したダンテにナマエは思わず苦笑いを零した。



「ダンテさんのこと?もしかしたらソフィアが朝食に起きてこなかったから心配して覗きに行ってくれたんじゃないかしら…」
「覗くどころか侵入してるわよ!!!大体よくも年頃の女の子の部屋にずかずかと…!」
「わり、怒ると思ってなくて」
「怒るわよ!!!…もうナマエ!!!わたしこいつ嫌い!!早く帰して!!」



ものすごい形相で声を荒げるソフィアを宥めるためにも一度キッチンの席に座らせると、肩で息をする彼女の背中を優しく撫でながらナマエは困ったように微笑んだ。


キッチンの向こうでこちらの様子を伺っているダンテはどうやら本当に悪気はなかったらしくナマエと目が合った瞬間「ごめん」とバツの悪そうな表情で片手を上げた。



「…そんなこと言わないで。ソフィア。ダンテさんそんなに悪い人じゃないと思うの」
「悪い悪くないの問題じゃなくて!!なんでわたしの部屋に勝手に入ってくるのかっていう話で…!」
「ソフィア、ダンテさんはノックしてくれたでしょう?返事はしたの?」
「……だってっ…!」



ぐっと押し黙るソフィアに困ったようにナマエは困ったように微笑んだ。


朝食を全員が食べ終わったのを確認したナマエはまだ下りてこないソフィアが心配になって一度様子を見に行こうと席を立ったのだがそこれをダンテが買って出たのだった。ダンテだけではさすがにいけないだろうと思って彼と一緒にノアも行かせたのだが、その判断は間違いだったのだろう。


もうすぐ14歳を迎えるソフィアは彼女が言う通り年頃の女の子なのだから。



「…とは言っても、気付いてあげればよかったよね。…ごめんね」
「……」



腰まである長いソフィアの髪をそっと撫でて申し訳なさそうに眉を寄せたナマエがそう言うと、ソフィアも少し落ち着いたのか小さく首を振った。ソフィアの様子を見てもう大丈夫だろうとナマエはキッチンの入り口でこちらの様子を伺っているダンテに軽く頷いた。



「…あー、…ソフィア」
「…」
「悪かった。気が利かなかった」



ソフィアのすぐ傍まで歩み寄ったダンテは気まずそうに後頭部を掻きながら呟いた。落ち着いたせいか先程の勢いはないものの、俯いてしまっているソフィアの表情を読み取ることができない。しゃがんで彼女の表情を覗き込んでみたが長い髪のせいではっきりとどんな表情をしているのか読み取れない。



「ソフィア」



優しく論すようなナマエに、ソフィアがやっと顔を上げる。しゃがんでいるせいかふたりの視線がぶつかった。



「…もういいよ。怒ってない」



たまらずそれだけを早口で口走って椅子から飛び上がったソフィアは足早にキッチンを後にした。きゃっきゃと外ではしゃいでいる子供たちの楽しそうな声だけがキッチンに響き渡る。


暫くソフィアの消えていったドアの向こうをダンテと並んでナマエも見つめていたがひとつだけため息を吐き出した。



「…ごめんなさい、ソフィアの部屋にはわたしが行けばよかったですね…」
「いや、俺も気が利かなかった。悪い」
「そんな。お手伝いしてくださってるだけでもありがたいのに…」



本当に申し訳なさそうに眉を寄せるナマエとダンテの間に若干の気まずさが漂ったが、すぐさまぱっと表情を切り替えたナマエが胸の前で両手を合わせた。



「そうだ、実は昨日の夜こっそりケーキ作ったんです」
「…は?」
「ふふ、たっぷりの苺に、スポンジの上にたっぷりの苺のムース!デコレーションには苺のクリームを使ったんですよ」



足取り軽くキッチンへと引っ込むナマエの後ろ姿を見ながら、楽しそうにスキップをする彼女が微笑ましくて緩む頬の筋肉を感じながらダンテはそっと微笑んだ。





(食べて気分転換したら、今夜の夕飯の献立を考えましょう。ソフィアが笑顔になれるような夕飯で!)
(賛成だ)

お題提供:Poison×Apple



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