クランベリー・ラブ | ナノ





外から鳥のさえずる声が聞こえてくる。珍しく朝早く目覚めたらしいが妙にすっきりしている。二度寝もできそうにないな、と判断したダンテはゆっくりとベッドから体を起こした。







相当早く起きたのだろうか、昨夜の元気なあの子供の声やナマエの声どころか物音もしない。


静まり返った建物の中をゆっくり歩いてたどり着いたドアを開けると、大きな机の置かれた部屋にたどり着いた。



「あっ!ダンテさん!おはようございます、早いんですね!」
「!あ、ああ、目が覚めちまった」
「ふふ、調度よかった。もうすぐ朝食できますし、そこに座っててください」



部屋の奥にあるキッチンからひょこっと顔を出したナマエに多少驚いたが、にこにこと微笑んでいるナマエはご機嫌な様子で朝食の準備をしているせいかあまり気にしてないようだった。


ナマエに言われるままキッチンに一番近い席の椅子に腰かけると、すぐにいい香りが鼻を擽った。



「朝ごはんできたらちょっと子供たちを起こしてくるので、先に食べててくださいね」
「子供たち?…ここに何人いるんだ?」
「わたしを入れて調度10人ですよ。わたし以外はみんな子供たちです。」



相当ご機嫌なのか、ナマエからは鼻歌が聞こえてきた。「ここで取れたお野菜だから絶対美味しいですよー」と言うナマエの髪に、窓から差し込んだ朝日が当たってきらきらと輝いていた。


こんな場所でひとりで9人の子供たちの面倒を見ているのか。楽しそうに料理をするナマエを見て、ダンテはおもむろに椅子から立ち上がるとキッチンへと足を進めた。



「…ダンテさん?」
「俺も何か手伝うぜ」
「へ?」



きょんとした表情のナマエに、ダンテが少しだけ微笑んで野菜を切っている彼女の隣に立った。せめてここにいる間は、とそんなことを考えてしまう自分が信じられない。



「暫く俺もここにいる」
「…え?…えっ?」
「女一人じゃできないこともあるだろ。俺が暫く手伝ってやるよ」
「え、そんな!」



申し訳なさそうに両手を胸の前で必死にぱたぱたと振るナマエに、にかっと笑ったダンテは彼女の頭に手を乗せるとぐしゃぐしゃと頭を撫でた。



「とりあえず、昨日の坊や達を起こしてくりゃいいんだな?場所は?」
「あ…えっと、ここを出て左に階段があるのでそこを上がってもらったら子供たちの部屋です!…、ダンテさん!」
「んー?」
「……ありがとうございます!」



深々と頭を下げたナマエに片手を上げて返事を返したダンテは木で出来た床を軋ませながらキッチンを後にした。


再び静かになったキッチンで、使い終えたフライパンを洗いながらナマエは自然に緩む頬をそのままに暖かくてむず痒い胸の感覚に目を細めた。





* * *





「ナマエー!」
「あっ、おはよう、みんな!」



思い切り開けた扉がものすごい音を立てて開かれたことに注意しようと息を吸い込んだナマエだったが、子供たちのどこか嬉しそうな表情に今日だけは、と口を閉じた。



「お兄ちゃんが起こしに来たよ!今日は一緒にいるの?ナマエ!」
「あ…」
「いるぜ。しばらく俺もここで暮らす」



嬉しそうに一気にまくしたてたノアに言いよどむナマエを遮って言うダンテが、どっかりと椅子に座ってにやりと不敵な笑みを浮かべた。ダンテが言い終わってすぐに子供たちの喜ぶ声が教会中に響き渡った。


朝食をそっちのけではしゃぐ子供たちを横目に慌ててダンテの傍まで駆け寄って耳打ちするようにナマエが腰をかがめた。



「ダンテさん、お仕事あるって言ってたのに…!よかったんですか??無理、されてないですか?」
「ああ、俺自営業だから。少し休むくらいどってことないぜ」
「…うーん…」



平然として答えるダンテにナマエがどうしようかと渋っていると、椅子に深く腰掛けていたダンテが体を捻って彼女を見た。



「助けてもらった礼がしたいんだよ。あんただけじゃ出来ないこともあるだろ?」
「それは、そうですけど…」
「じゃ決まり。しばらくよろしくな、ナマエ」
「えっ?!…そんな、ダンテさん」



まだ納得できない、と、すっかりこの教会でしばらく暮らすことをひとりで決めてしまったダンテに言いたかったのに、お腹が空き始めた子供たちによって遮られてしまった。


きゃっきゃとはしゃぐ子供たちと一緒になって朝食を待つダンテに思わず笑みがこぼれたナマエは息を吐き出した後足早に朝食を運ぶためにキッチンへ戻って行った。






(それじゃあお言葉に甘えましょうか)
(なんなりと、お嬢さん)



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