ZZZ | ナノ

3


「…なあ、そのお花のお姉さんって…」
「マグナス!」


爽やかなソプラノが広場に響いた。立ち上がって弾かれるように声の方へ体を向けたマグナスがほっとして笑顔を浮かべると、ナマエは申し訳なさそうに眉間に皺を寄せた。


「遅くなってごめ…―――」
「あ!お花のおねーちゃんだ!」
「ほんとだ、おねーちゃん!」
「え、……わ、み、みんな!」


マグナスを取り囲んでいた子供たちが一斉にナマエに向かって駆け出した。マグナスに謝るつもりで腰を折っていたナマエの足に飛びつきながら次々とくっついていく子供たちを受け止める彼女の淡いAラインの服が揺れる。

すっかり出遅れたマグナスがやっとナマエのもとに歩を進めれたのは次々と繰り出される質問にナマエがいくつか応え終えた頃だった。


「ナマエ」
「マグナス…、…ご、ごめんなさい!ものすごく遅刻しちゃった…」


広場を飾る大きな時計の針は待ち合わせの時間を大幅に過ぎた数字を指示していた。


「いや、君のことをまた知れたような気がするよ。よかったと思う」


自分を取り囲む子供たちに一言断って立ち上がると申し訳なさそうな表情を浮かべたナマエは今度こそ腰を折って深々と頭を下げるが、逆にその場にしゃがみ込んだマグナスが彼女の顔を覗き込んでにこりと微笑んだ。

頭を下げたままのナマエと目が合う。ゆるゆると緩んでいくその表情に思わず吹き出してしまった。


「マグナスは優しすぎだよ」
「はは、じゃあ。……『だいぶ待たされた。1時間も何してるのかと思ったよ』」
「う……ごめんなさい…」


『優しすぎ』というよりは、『甘い』というべきだろうか。マグナスが浮かべていた笑みを消してむっとしてやるとすぐにナマエはハの字にしていた眉をより一層ハの字に深めた。


「いいんだ。気にしてないのは本当だから。逆に来てくれて助かったかもしれない」
「え?なんで?」


顔を上げて首を傾げるナマエにだけ分かるように、彼女の周りを取り囲む子供たちにちらりと視線を向ける。

彼らは今も楽しそうにナマエを取り囲んで腕を引っ張ったり「ねーねー」と声をかけている。マグナスの様子に苦笑いを浮かべたナマエは「なるほど」と口にすると自分を取り囲む子供たちと話すためにしゃがみ込んだ。


「…ごめんね、今日はわたし、このお兄さんとデートがあるの」
「デート!?お花のおねーさん、このおにーさんと付き合ってるの?」
「そうだよー。かっこいいでしょ!」
「かっこいーー!」
「ふふっ!みんなにはあげなーい」
「えー!なんでー!」
「ふふふっ、なんでもー」


楽しそうに子供たちと話しているナマエはそのまま二言三言交わすと立ち上がってくるりと振り返る。マグナスと視線が合わさって、大きな瞳がさらに大きく見開かれたと思えば、ゆるゆると細くなった。


「マグナスがにやにやしてる。珍しい」
「!?」


くすくすと笑っているナマエに釣られて彼女の周りに居た子供たちまで「ほんとだー」と口々にしながら指をさしてくる。慌てて両手で顔を抑えたマグナスはナマエと子供たちから隠れるように背を向けた。

ぺしぺしと両手で頬を叩いているとふいにふわりと甘い花の香りがマグナスの鼻を掠めた。視界の隅で触れた甘栗色の髪に、観念したように顔を上げると彼女はにっこりと微笑んで右肩からかかるブルークロスの裾を軽く摘まんだ。


「いっぱい待たせてごめんねマグナス。待っててくれてありがとう。遅れちゃったけど、デートしよう?」
「…ああ!」


まだ若干熱を放っている顔はそのままに、背筋を伸ばしたマグナスがナマエの手をブルークロスから離して繋ぎ直す。にこにこと笑っていたナマエの表情がさらに緩んだのが見えた。

周りに居た子供たちも何やら嬉しそうにマグナスとナマエの周りではしゃいでいる。


「おねーちゃんたち、今度はいつ来てくれる?」
「うーん、いつかは分からないけど今度来た時はまた遊ぼうね」
「絶対だよ?」
「やくそく!」
「ゆびきりげんまん!」


言いながら手を振って再びかけっこをしだす子供たちの背中を見送ったナマエとマグナスは向き合って笑みを零した後、ゆっくりと広場から歩を進めた。





「そういえばその服」
「うん?」
「よく、似合ってる」
「ふふふっ…マグナスったら、また照れてる」

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