MEMO | ナノ


02/01 発掘

Ogre64:騎士団長のお話(息子がいます。)


中途半端のままでこれ以上執筆の予定がないのでここに上げておきます。
お名前の変換は出来ないので『〇』になっています。
追記のテストもかねてお話は追記の方で。

薄暗闇に浮かぶ柔らかな松明の光がゆらゆらと揺れている。今何時なんだろう。

静けさに包まれた執務室に一人背後に広がる大きな窓の向こうに広がる夜空に向かってマグナスはため息を吐き出した。

そうして心を落ち着かせれば、静かな城内に響き渡る全ての物音すら拾えてしまうような気さえした。


「………早く終わらせなくては」

目の前にある残り数枚になった今回目を通すべき資料の隙間に指を差し込んで一番上に乗せられた羊皮紙を引き寄せる。羊皮紙の擦れる音が耳をかすめていく。

ほとんど押し寄せる眠気によって何が書かれているのかあまり頭に入ってこない。がりがりと頭をかいたりこめかみを強く押したりしてみたが一向に眠気の引く気配がない。

自分で目を通すと決めた書類だというのに頭に入らないのでは意味がない。


「仕方ないな…」


できるだけ音を響かせないように椅子を引く。大理石でできた床の上を木の椅子がカツンと響かせた音さえ気にしてしまう。

背もたれに無造作に掛けたブルークロスを掬い取ると書類が飛ばないように重石を乗せてゆっくりとした足取りで執務室を後にしたマグナスを突き刺すような寒さが襲った。

最近急に寒くなってきたような気がする。できるだけ寒さをしのぐように手に持ったブルークロスを自分の体に巻きつけると足早に部屋へと続く廊下を進んでいく。

廊下に作られた窓の向こうを真っ白な花びらが数枚舞ってどこかへ消えていく。その後を追うようにして藍色のような、紫色のような小さな花びらも夜空へと舞って消えていく。〇はどうしているだろうか。気付けばマグナスの足は小走りになっていた。


「…ああそうだ。何か暖かい飲み物を。…レイアが言っていたな」


寒さの際立った数日前、丁度今のように仕事を終えて足早に〇の待つ部屋に帰ってきてレイアに怒られたことがある。

肝心の〇はといえば「そんなこと気にしなくていいのに」と微笑んでいたが、何もできず数時間おきに起きては休みなく育児をしている〇の姿を見て何かできないかとはマグナスも考えていた。

まっすぐ自分の部屋へ帰る前に給湯室へ寄っていく。彼女が好きだったのは紅茶だったはずだ。そこまで考えてはっとする。


「紅茶に含まれるカフェイン、とか言うのは母子の体にあまりよくないんだった、か?」


曖昧で忘れてしまいそうだったが思い出せてよかった。比較的ひんやりとした棚に置かれた調達を頼んだばかりのミルクに手を伸ばすとスプーン一杯の砂糖を入れてから火に掛けてやる。

すぐにこぽこぽと音を立てて湯気をあげはじめるミルクの入ったカップを取り上げていつも〇がそうしてくれているようにお盆に乗せると今度こそまっすぐに自分の部屋に向かって歩き出した。

薄暗い廊下は相変わらず肌寒い。部屋の中にいるとは言え少々不安が過ぎった。

そうこうしている間にもう数メートル先に見えはじめた自分の部屋の扉に気だけが焦った。こつこつという床をたたく自分の靴の音すら気にせずドアノブに手を伸ばした瞬間、待ってました、と言わんばかりにかわいらしい泣き声がドアの向こうからくぐもって聞こえ始めた。


「…………っ、〇…!」


もう音を心配する必要もないだろう。いつもより少々荒く扉を開けると、ドアから一番遠い部屋の壁に沿うようにして置かれているベビーベッドの格子の隙間から小さな腕がひょっこりと顔を出した。

ほのかに香るまだ嗅ぎ慣れないミルクのような香りに妙な緊張を感じる。驚かせてしまっただろうか。ぐいぐいと母親を求めて腕を伸ばしながら弱々しい泣き声を上げているそれに近付こうとしたときだった。マグナスの視界をまっしろの触り心地の良さそうな生地が横切った。


「はいはい。おはようアイネアス、お腹すいたね。あっちにいこうか」


甘く優しい、柔らかなソプラノが静かな部屋に広がった。ベッドからまっすぐ伸ばされた手に一度触れてそっと抱き上げた〇はソファーまで移動して腰掛けると、出入り口に突っ立ったままのマグナスにやっと気付いたのか顔を上げてにっこりと微笑んだ。


「おかえり、マグナス。いきなりこんなことになっててごめんね」
「…いや…」
「はいはい、お待ちどうさま」


ベビーベッドのすぐ近くに置かれた大きなソファーに〇が腰掛ける。以前彼女が身にまとっていた服とは少々形が違うそれは胸元を少し広げれば乳児が母乳を飲めるようになっているようですぐに泣き声は収まった。

いつまでもドアの傍で立ち尽くしているマグナスを見て〇が首をかしげた。


「マグナス?どうしたの?」
「!…い、いや。なんでもない。…ホットミルク作ってきたんだ。代わるよ」
「ふふ、んーん。大丈夫、ありがとう。でも今代われないからアイネアスのお腹がいっぱいになったら交代してくれる?」


そこまで言われてはっとする。顔を真っ赤にさせるマグナスにくすくすと静かに笑う〇がアイネアスを抱き締めなおす。


「マグナス、とりあえずここ、ここ」
「あ、ああ…」


いつまで経っても出入り口の近くで固まっているマグナスにもう一度笑みを浮かべた〇は自分が座っている場所のすぐ横をぽんぽんと片手で叩いた。

おずおずといった様子で彼女の隣に腰掛けたマグナスが手に持っていたホットミルクの乗ったお盆を机の上に乗せる。優しく抱き締められて母乳を頬張るまんまるの頬に思わず口元が緩むのを感じて、それと共に緊張の糸のようなものがぷつりと切れた。


「…はあ、情けないな、俺」
「ええ?どうしたの、急に」


抱き締めていたアイネアスを一旦胸元から離すとくるりと反転させる。「ふぇ」と僅かに抗議の声が聞こえたが、すぐに目的の場所に口が到達したらしく再び部屋は しん、と静まり返った。


「アイネアスは俺と〇の子供だろう。…それなのに、俺は何も出来ないし…」
「そんなことないのに」
「だってそうじゃないか。周りに言われないとろくな知識すらない」


深く腰掛けたマグナスが両膝に肘を置いて両手を強く握り締めると深く息を吐き出して俯いた。

流れるように滑っていく藍色の髪が松明の光に照らされてきらきらと輝いて見える。


「そんなの、わたしだってそうだよ。…と言うか、わたしの方がマグナスのしている事何にも知らないし…」
「それは、俺が…」


そこまで口にして優しくアイネアスを包む〇がふわりと微笑んだせいか思わず言葉を失った。

気付けば満腹になったのか、口を離して眠りに就こうとしているアイネアスを見て〇がその頬にキスを落とすと出来るだけゆすらないように気を付けながらその小さな体を差し出した。


「え…?〇?」


突然の事にマグナスが目を泳がせながら寝息を立て始めているアイネアスに腕を伸ばすが受け取れずにいた。


「ふふ、マグナス、こうだよ」
「あ、ああ……」
「緊張してる?」
「と、当然だろ。まだ数えるくらいしかこうしたことないんだから…」
「慣れるよ。…ね、まだアイネアスげっぷしてないの。そのまま背中とんとんしてくれないかな」


その間にわたしもミルク!とくるりと身を翻し〇がマグナスの運んできてくれたミルクの入ったカップに手を伸ばす。

程よい暖かさになったミルクをひとくち口に含むと、手に持ったカップがいつも自分が愛用していた真っ白でシンプルなカップだと言うことに気付いて表情を緩ませた。


「お、おい〇…」
「あ、はいはい。げっぷした?」
「ああ、俺でもわかりやすかったけど…この後はどう、したら…」
「…アイネアス、寝てる。ありがとうマグナス。もうベッドに寝かせても大丈夫、だけど…」


背の高いマグナスの腕に抱かれて幸せそうに眠るアイネアスを背伸びで見て言うと、僅かに寂しそうに顔を歪めたマグナスと目が合ってしまった。


「ふふっ!マグナスが満足するまで抱っこしてて!その方がきっとアイネアスも喜ぶよ」
「そうだと…いいな…」
「喜ぶよ。当然じゃない、パパの腕の中なんだよ」
「……パパ、か…」


感慨深そうにアイネアスを見つめて丸くすべすべの頬に人差し指でやさしく触れてみる。深い眠りに就いているアイネアスは目を覚ます気配もなくすやすやと穏やかな寝息を立て続けている。


「それはそうとマグナス、ちゃんと寝てる?」
「…いや、…その…。なんで?」
「目の下。ほら、クマが出来てる。…そうじゃなくてもマグナスが疲れてるのなんか見たらわかるよ」


アイネアスの頬を幸せそうにふにふにと触っているマグナスの瞳はうつろで、どこかぼんやりとしているようにも見える。こんな状態なら自分じゃなくても、たとえ初対面の相手だって疲れていると一目でわかるだろう。


「…無理しないでね。眠いときは少しでもちゃんと寝て」
「ああ…」
「どうせ頭掻いたり米神押さえたりして眠気を払おうと思ってたんでしょ?それくらいじゃ日々積み重なった眠気なんか飛んでかないんだからね」
「…ごめん…」
「…ふふっ、そんな顔しないの。さっきご飯食べて満腹になったから、次アイネアスが起きるのはもう少しあとかな。…それまで一緒に寝ない?」



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