「高尾ー」

 「おー?どしたー?」

 特に何も用がなくとも、その背を見ると呼び止めてしまう。二年になってクラスが離れてしまった今、見かければ話しかけるくらいの勢いでないと直接話す機会はそうそうない。
 ジャージの入った袋を肩にひっかけて、彼が数メートル先で振り向いた。隣のやたらに目立つ眼鏡は、顔をしかめて先に行ってしまった。

 「あ、ごめん。邪魔した?」

 「いや?真ちゃんいっつもあーだから」

 で、何?と、歯を見せて笑う高尾に要件がないことを思い出して、慌てて何かないかと頭をフル回転させる。部活?いや知らない、クラスも違う、こう考えてみれば私と高尾は悲しいほどまでに接点が無い。

 「そーいやさ」

 忘れちゃった、と口にしようとした諦めの言葉の前に、差し込むように高尾が口を挟んだ。

 「次現代文なんだけど、教科書持ってねえ?」

 後ろ手に組んだ、手の中に握られていた教科書を言い当てられて、どきりと心臓が跳ね上がった。なんてタイミングがいいのだろう。そういえば今朝のおは朝占いは、一位だったような。

 「えっ、あ、丁度いいね、持ってるよ!はい、これ」

 丁度先ほど終わった授業のそれを、目の前に差し出す。覗き込むように屈みこんだ高尾の制服から、ふわりと制汗剤の匂いがした。

 「サーンキュ、じゃあまた後でな〜」

 ウィンクを一つ残して、去って行く。チャラいというべきかなんというべきか、そんな仕草の似合う高尾和成がなんだか憎たらしい。しかし、些細な会話ひとつでこんなに浮足立ってしまう以上、もはや私の自制心に勝ち目なんてないことは分かっていた。

 「また後で、かあ〜…」

 言葉をかみしめるように教室に向かう足取りは、梅雨の湿気を吹き飛ばすほど軽かった。









 「見え見えだっての、ホークアイ舐めんなよ」

 現代文の教科書を弄びながら呟いたオレに、怪訝気な視線が落ちてくる。

 「高尾、今日は現代文なんてないだろう」

 「あー?あー、ま、これも予習みたいなモンっつーか」

 真ちゃんにはまだ早いかもな、なんて馬鹿にした口調で195cmを小突けば、本日のラッキーアイテムであるメリケンサックの鉄拳が降ってきた。

こはちゃんより誕生日祝い第三弾として黒バスの高尾小説を頂きました!三作も素敵な小説貰ってしまって私そろそろ死ぬんじゃ…?しかも三作とも私がtwitterで読みたい、されたいって呟いてた事なんですよねこれが(そのせいで私がドM疑惑が浮上したのは内緒です);;;私この時現代文の教科書失くして焦ってたんですけどそうか高尾が持って行ったのかってとても穏やかな気持ちです…。こはちゃん、本当に本当にありがとう!最高の誕生日でした!

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