「ハァ?」

 たった二音、それも決して声を荒げられたわけでもない。なのになんだろうか、この威圧感は。ぐいと首を逸らしてその長身を見上げても、眼鏡と角度のせいでよくわからないその表情に小さく歯ぎしりをする。180cmもあれば十分だろうに、なぜだか余分に8cmも上乗せされた身長がこんな時はとても憎い。その上何を怒られているのかもよくわからないとあれば、こちらにだって少しくらいは言い返す権利くらいあっていいものだろう。

 「お?」

 口に出してからまずいと思った。これではまるで煽りだ。疑問詞が言葉にならなかったのでこんな音になってしまったんですと、言い訳しようにもピキピキと青筋を立てて表情を変える彼の前では得意の口も上手く回らない。

 「僕の話ちゃんと聞いてたワケ?」

 眼鏡の角度が変わって、茶に転んだ色素の薄い目がレンズ越しに覗いた。うおお、漫画みたい、と思いながらこくりと頷く。話は聞いていた、はずだ。どうして怒られているかはさっぱりだけれど。

 「ツッキーさあ、」

 さっそく口を開いた私に、彼の顔が信じられないとでも言いたげに歪んでいく。なにかいけないことでもいっただろうか。いや、でも話しかけただけだしな、と自己完結しているうちにも、ツッキーの視線は刻一刻と辛辣なものに変化していくようだった。これではまるで馬鹿をみる目ではないかと、内心憤慨するも、ここで言うことが賢くないことくらいは分かる。私は大人なのだ。

 「あの、ツッキーなんでそんなに怒ってるの?さっきからよくわかんないんだけど、ツッキーの教室見に行ったらツッキー見当たらなかったから、仕方なくクラスの子にツッキーいませんかって」

 グワン、と、ブリキに鈍いものが当たる音がして、私は思わず口をつぐんだ。私の脇腹のすぐ横には白の上履き、そこからのびる脚に長いなあ、なんて感想を零せば、苛立ったように彼が再び壁を蹴る。

 「へこんじゃうよ」

 「どーでもいいデショ、そんなの。それより」

 なんなの?と彼が眉を顰める。喧嘩売ってるの?と、近づいた顔を月光が照らして、白い肌がさらに白く映った。
 いかにもシリアスな雰囲気にぽかんと口を開けた私と、不機嫌そうな顔で私を覗き込む彼の間にさほど気まずくもない沈黙が流れた。その間、約十秒。

 「…どういうこと?」

 結局しびれを切らして聞いた私に、ツッキーがもう一度冒頭の威嚇を繰り返した。それでもめげずに繰り返し問いかければ、くいと、眼鏡のフレームをいじりながら、彼が溜息を吐く。

 「ホントに分かってないの?」

 頷けば、ツッキーは猿でも見るかのように鼻に皺を寄せた。ひどい、これでも華の女子高生なのにと、髪の房をいじりながらつぶやく。

 「山口と同じ呼び方しないでって言ったよね。不愉快なんだけど」

 ぱちくりと、目を瞬かせる。ツッキー、とそばかすの彼が呼ぶその呼び方がなんだか可愛かったのでそれに倣ったのだけれど、こうも機嫌を損ねてしまうとは。とりあえずとっつきにくい月島くんをあだ名で呼んでみよう計画は失敗だとして、そうとなればもう他の呼び方はこれ以外にない。どうせなら思い切りよく、が私のモットーだ。

 「…あー、そういうこと!そういうことね、ごめんね、以後気を付けるね、蛍くん!」


 ケイって綺麗な名前だねー、と、笑った私に再び冒頭の言葉が贈られるのは、その五秒後のことである。

こはちゃんから頂いた誕生日祝い小説第二作目です!ハイキューのツッキー頂いてしまいました;;;これで初書きとかこの子言ってるんですけどこれが才能の差ですね紫音理解した。ペダル沼にいながらこんな素敵なツッキー夢が読めて私とても幸せです;;;こはちゃん本当にありがとう!

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