走ったその先が見えなくて、辿り着くのかさえわからずにとうとうその足を止めただ立ち尽くした。
暗い空の海の中。光の射さないこの空間には星は存在せず、その波に飲まれるようにそっと瞼を閉じた。目の前に広がるのは同じ黒。足掻いたって何一つ変わりやしない。
きっとこの宇宙の塵とずっと漂うだけなんだろう。

何かを求めるように伸ばした指先はただ揺蕩うだけで。

そのまま自分もいつか消えてしまいそうな気がして、ふと一つの名を紡ぎたくなった。それは自分の存在理由。守らなければいけないと誓った彼女のもの。

「バカだよなぁ」

我ながら情けないと自嘲の笑みは暗闇に溶けていく。
傷つけることが怖くて────否、傷つくことが怖くて逃げ出したのは自分の方だというのに。

それでもこの体温が暗闇と溶けて消えてしまう前に、どうか。世界で一番身勝手な祈りを呟く。叶えてくれるはずの星すらないのに、と心のどこかでもう一人の自分が笑った。

織姫に会えない彦星はどれほど苦しかったのだろう。だから人々は哀れみ、星を結んで夏の大三角形を作ったのだろうか。だとしたら、自分は。

その瞬間、不意に音が聞こえた。
幼い頃何度も聴いた耳に馴染んだそのメロディー。

導かれるようにしてそっと目を開ければ、光がそこにあった。
星のようにキラキラと輝きを放つ、五線譜の上に奏でられたその音達が自分を包み一つの道を作る。

この道標の先に、君がいるのだろうか。
会いたいと、思ってくれているのだろうか。

天の川を駆け抜けたその先で君がピアノを奏でているなら。もう一度笑ってくれるなら。一億光年さえ飛び越えてみせるから。

散らばった星屑を集めて君に届けよう。君に縋る一秒は僕に在る永遠。

アルタイルとベガの奇跡を、どうか僕等に。


(0509 こはちゃん宅の新開連載「Vivo altisonante」のイメソン「Spica」そして個人的なイメソン「君の知らない物語」「star duster」を意識して書きました!!響子ちゃんが奏でてるのはプロローグのきらきら星だったらいいなって。謎ポエム軽率に押し付けてごめんねこはちゃんSUKI!!)

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