ついこの前、俺は告白をした。
高2から好きで、相手は面白くて一緒に居て楽しい奴。
周りから見れば仲のいい友達と言った感じらしいのであまり望みは無かったけれど、玉砕覚悟で望んだ。
あまり前のことではないが、その旨を伝えた後に返ってきた少し震えた私も好きです、という言葉がついさっきの事のように思い出せる。
俺はこういうタイプじゃないが、正直なところ骨抜きにされているようだ。

付き合って間もない時期、このクソ忙しい箱学自転車競技部の貴重な貴重なオフは本来なら2人でデートでも行きたい所だが、現実はそうは上手くいかないもので、高校生3年生の俺らにはもう来週に模試が迫っている。
折角だし一緒にやれば分からないところも教えあえるだろう、という事で寮の部屋で勉強することにした。
彼女が自分の部屋に来るとなると落ち着かないみたいな話はたまに聞くが、そんな事前まで無かったし無いと思ってたけれど正直今死ぬほど落ち着かなかった。
精一杯部屋を片付けて、名前の好きそうな飲み物を数本揃えて部屋でうろうろした後寮の入口まで迎に行くと見慣れない私服姿の名前が立っている。

「ごめん待ったァ?」
「ううん、丁度着いた所。靖友5分前に出てくるなんて律儀だね」
「ッセ、名前こそ早く来すぎなんだヨ。そんなに俺の部屋楽しみかァ?」

急に黙るので不思議に思い顔を覗き込むと名前が少し顔を赤らめてなかなかに強い力で脇腹を殴られた。

「ッテェ!!なんでだヨ!!」
「なんか腹立つもんその顔」
「理不尽かよォ」

そう言うと笑ってるじゃん、と名前が楽しそうに笑う。殴るのに否定はしないんだな、と思ったのでそう言ってみると耳を赤くしてあっそ!と言われてしまった。こいつはこういうところがいちいち可愛い。

意外に綺麗にしてるんだ、と俺の部屋を見てにやつきながら言ってくるのでうるせぇ男の部屋がみんな汚ぇと思うなヨ!と小突いてやるとはいはいすみませーんと流された。
そこから少し話すのもそこそこに、二人で数学を広げて勉強を始めると開始早々俺と違って文系の名前が固まる。
ううん、と唸って首を捻り好きそうな可愛らしいデザインのシャーペンでペンまわしを始め悔しそうな顔で俺の名前を呼ぶ。

「...ねぇ靖友」
「はァい何ですかァ」

そう片手間感たっぷりに横目で見てやると分かっているくせに、とでも言いたげな顔で俺を見つめてくるけれど当然俺はそれが面白いので助けてやろうとはしない。
その返事以降特になにも反応してやろうという素振りを見せずにいると、またそこそこ強い力で脇腹を殴られた。

「ってぇヨ!何も殴らなくてもいいだろォ?!」
「だって靖友が」
「いやまだ俺なんも言われてねェよ、名前呼ばれただけだヨ」
「…そうですね」
「ンだよ、言わなくても分かれってかァ?」

うん、と言うように頷く名前を見ていいことを思いついた俺はさぞかしバレバレの企み顔をしたのだろう。
途端に名前は嫌な予感を感じ取り、頷かなければ良かったという顔になった。

突然だが俺たちはまだ付き合って間もないのであまり、なんと言うか進んでいない。
そりゃあ当たり前と言えば当たり前なんだろうが、今のところはぎこちないながらも手を繋いだり抱き合ったりくらいで正直なところ俺としてはもっと前に進みたい訳で。
名前は慣れているんだろうけれど俺は中3からヤンキーで嫌われてて、福ちゃんに出会って初勝利や自転車競技部での初めて後輩を経験して正直恋愛をしている余裕は俺にはなかった。
もちろん新開や東堂っていうモテる奴らに比べて俺は顔も性格もあまり好かれないし、せいぜい女子が俺に近づいてくるときは新開にこれ渡せだとか、同じ学年の奴らの事を聞いてくる事くらいしかない。後は普通の女友達数人って所だ。
そんなモテない男子高校生に彼女が出来たとなると相当浮かれるし、まぁ「そういう事」もしたい訳で。
いやそれだけという訳ではないし好きだからこそってのが大部分なのだけれど、慣れているであろう名前に遅れを取りたくねぇ、ってのも無くはない。

そこでこんな意地悪をする機会が巡ってきたら俺はもう我慢をする気は愚か、キスしてやろうという思惑で頭がいっぱいになった。

「キスして欲しいんだろォ?」
「…え」

若干引いたような声と共に予想通り脇腹に入れられるグーパンチ。体に堪える訳ではないけれどいつも通りなかなかにいたい。
やっぱり嫌か、なんて思いつつ俯きかけた顔を上げると少しほおを赤く染めた名前が居てこれはどさくさにまぎれてキスするしかないな、と思った。

「ッテェ!何すんだヨ?!」

そう言いながら無造作に首の後ろをもって不器用なりにキスをする。
唇柔けぇ、なんてテンプレートな感想を興奮気味の頭でぼうっと考えていると意外にも顔を真っ赤にした名前がばか、と今度は弱めで脇腹をぽかぽかと殴って来た。
どうやら俺の彼女は意外なとことに初心で、意地悪に弱くて、それと一層愛らしい。

またとうふちゃんから素敵な靖友頂いちゃいました!
私がtwitterで「荒北靖友哲学すぎてそろそろ殴るしかない…ダメだ…」と時々頭抱えているのですが、それをとうふちゃんがこんな可愛いお話に変換してくれて…!少しも物騒じゃないぞ凄い…!と感動してます。私がド文系なことも設定にいれてくれたり…とうふちゃん本当にありがとう!!


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