今日の古典は先生の出張により自習になった。
殆どのクラスメイトが課題のプリントを終わらせ各々好き勝手やっている中、私は顰めっ面でプリントと戦っていた。
文系のくせに古典が苦手な私にとって、これは中々の強敵だ。
この動詞って四段?それとも下二段?もうどっちだっていいじゃないか。

「おい、」

うんうんと一人唸る私に声を掛けたのは、隣の席の今泉君だった。学年でもイケメンと名高い彼が私なんかにどうしたのだろうか。
不思議に思いながらも顔を上げ横を見れば、彼は至極真面目な顔をして口を開いた。

「まじかるじゃないのか」

一瞬、彼が何を言っているか本気で理解できなかった。

────まじ、かる?マジカル?

まさかあの今泉君からそんなファンシーな言葉が出ると思わなくて、思わずぽかんと口を開ける。

マジカルじゃないのかって何だ。私は魔法少女か何かか。

内心そうツッコみながらも「えーと……ラブヒメ?のことかな?」と尋ねてみる。
確か小野田君と今泉君がクラスでそんな話をしているのを、何回か耳にした記憶がある。(とは言ってもよく喋るのは小野田君の方で、今泉君はどちらかと言えば聞いていることが多い気がするけれど)
「ごめん、アニメ詳しくないんだ」謝れば即座に「違ーよ!」と返される。

「助動詞まじの連体形はまじかるだろ!」
「え、」

状況を把握出来ていない私に、今泉君は先ほど埋めたプリントの穴を指差す。
……あ、本当だ。
どうやら活用の種類を間違えていたようで、言われてやっと思い出した。シク活用かと思ってたよ。消しゴムで消した後シャーペンで言われた通り"まじかる"と穴を埋める。

どうやらさっきはわざわざ間違いを教えてくれていたらしい。だとしたら私はなんて失礼なことをしたんだろう。
これは謝らなくては、そう思い横を見て驚いた。頬杖をつきながら私とは反対の方向を向いているけれど、僅かに覗くその頬は確かに薄い赤に染まっていて。

……これはもしかして、照れているのだろうか。
意外だ、もっとクールで動じない人かと思っていたのに。
私の目に映る今泉君は、それがとても歳相応に見えた。

「あの、今泉君」

その名を呼べばわざわざこちらを向いてくれる。

「……なんだよ」

気恥ずかしいのか、その口調は少し素っ気ない。でもなんだかそれも可愛くて。
ごめんね、発そうとしたその言葉を喉の奥で飲み込んだ。
違う。私が伝えたい言葉は、これじゃない。こっちの方が、しっくり来る。

「ありがとう」

小さく笑えば少し目を見開いた後「……あぁ」と短く返される。でもその声はさっきより格段に柔らかくて。

どうやら私は、今泉君という人間を少し誤解していたらしい。
もっと彼を知りたいと胸の奥で生まれるこの気持ちを何と名付ければよいのだろうか。

明日から───いや、このプリントが終わったら、思い切って話し掛けてみよう。また彼の新しい一面が見られたら嬉しいな。

そう思えば苦手な古典にも少しだけやる気が湧いた気がした。





(20141227)


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