文を書くのはわりと好きだ。
国語の感想文も面倒だとは思うけどそこまで苦痛にはならない。昔から読書が好きだったから、その影響だと思う。

それに頭の回転が速いとは言えない私は話すこと自体あまり得意ではない。友達と話すのは全く問題ないのだけど、あまり関わりのない人と話すのは緊張してしまうタイプなのだ。必死に話題を探すことも、間の沈黙も苦手。

だから手紙は好きだった。貰うことはもちろん、書くことも。書く前に頭の中を整理出来るし、自分が伝えたいことをちゃんと伝えられる気がして。

なのに、なんで。

(……私、荒北君になんて書いて送ったっけ)

頭を占めるのは、数日前に荒北君に送った手紙のこと。
何が頭の中を整理出来るだ。伝えたいことを伝えられるだ。完全に我を忘れていた。ただ水のように溢れ出る思いを器から零さないように必死で文字にしただけ。
なんて書いたのか不安で仕方がない。

応援したい、なんて烏滸がましかっただろうか。

あの時は衝動に身を任せてしまったけど、あんなのただの自己満足だ。

なんだか恥ずかしくなってきて、そのまま顔を机に突っ伏せる。ヒンヤリとした机の冷たさが心地よい。
冷静になって考えると我ながら大胆なことをしたと思う。
やらかした。一言で表すならこれだ。

私と荒北君はクラスメイトでもなんでもないただの他人だ。私が一方的に彼を知ってるだけ。あんな手紙を送られて気持ち悪いと思われる可能性だってあることを全く考えていなかった。
荒北君がそんな人だとは思わないけど、もしあの手紙が晒されでもしたらどうしよう。名前を書かなかったのがせめてもの救いだけれど、筆跡でバレてしまうかもしれない。そんなことになったら私は不登校になる自信がある。

悪い方向にばかり思考が広がって止まらない。


……それでも、

「かっこよかったなぁ……」

ぼそり、一人小さく呟く。

あの時は咄嗟に逃げ出してしまってけれど、それは怖かったからじゃない。そうでもしないと脳がパンクしてしまいそうだったのだ。


「文乃、」
「ぅえ!?」

突然真上から降った声にビクリと体が揺れた。慌てて顔を上げれば、そこには訝しげにこちらを見つめる菜々の姿。
いつの間にそこに、というかどこから聞いてたんだろう。万が一さっきの発言が聞かれていたら間違いなく白状させられる。それだけは絶対に回避したい。
内心冷や汗が止まらない私を全く気にする様子はなく、菜々は「ごめん、英表の宿題見せてくんない?」と両手を合わせてきた。その言葉にほっと胸を撫で下ろす。
よかった、どうやら聞いてなかったみたいだ。机の中からノートを出し手渡せば「流石文乃様ー!」と拝まれる。調子がいいなぁ、と苦笑するもなんだかんだ憎めない子なのだ。
そのまま自分の席に戻るのかと思いきや、意外なことに菜々は前の席の椅子をこちらへと向け、私の机に頬杖をついた。
写さなくていいのかと聞けば「一時間目の国語で写すから大丈夫」とサラリと返される。毎度のことながらよく内職(授業中別のことをするのを私達はこう呼んでいる)する勇気があるなぁ。私はバレた時を考えると怖くて出来ないや。

「それより文乃に話したいことあってさぁ」
「え?何?」

いつもだったら朝のHRが始まるまで机で突っ伏して寝てるはずなのに。そんな菜々が朝一で話したいことなんて、一体なんだろう。
首を傾げる私を見つめ、菜々は含みたっぷりに笑った。

「荒北のこと」

その名前に心臓が大きく音を立てる。それは恋する乙女の心音だなんて、そんな可愛いものじゃなかった。背中に嫌な汗が伝うのが自分でもわかる。自分の指先がやけに冷たく感じた。
もしかして、手紙のことが噂になっているのだろうか。

「荒北君が、どうかしたの」

バクバクと煩い心臓を何とか押さえつけ、声が震えないよう平静を装う。

「なんでもアイツね」


チャリ部、入ったんだってよ。


身構えた私に返ってきたのは、予想外の言葉だった。


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