今、名前は非常に困っている。

 学校帰り、名前本屋に寄りたくて駅前に行き、欲しかった小説を購入した。どうせ帰っても誰もいないしと思い、カフェに入って小説を読んで2時間。外は薄暗くさすがにもう帰らないとと思い、名前小説を大事に鞄にしまって外に出た。
 今日は何を食べよう。もう遅いし作るの面倒だと思い、帰りにスーパーに寄ってお弁当でも買おうと歩いていると、急に声をかけられて、名前はいつの間にかガラの悪い男子高校生3人に囲まれていた。
 確かこの制服、最近見たな。あの人と同じ欧華高校の制服だ、と思う名前。

「あの、何か…」
「こんな時間まで何してたの?まだ時間あるなら俺たちと遊ばない?」
「いえ、もう帰るので」

 まずい。これ、ナンパってやつ?
 名前は心の中で動揺し始める。ナンパなんて聞いたことあるだけでされたことがない名前は、どうしたらいいかわからなかった。菜緒にはよく「気をつけて」「知らない男に声かけられたらすぐ逃げるんだよ」なんて言われていた名前は、菜緒はこのことを言ってたのかなと思い知る。

 丁重にお断りしてその場を去ろうとしても、なかなか帰らせてはくれない。これは困った。
 どうしようと思っていると、腕を掴まれて引っ張られる。

「どっどこに行くんですか」
「どこって…それ聞いちゃう?」
「え、」
「あ。泣きそうになってる。かーわいいね」

 こわくて涙が出そうになる。でもこんな人たちの前で涙なんて見せたくないと名前は思った。腕を振り払おうとしても力が強くてなかなか振り解くことができない。どんどん引っ張られていく一方だった。

「おいてめぇら」
「あ?」
「嫌がってる女連れてどこ行く気だ」
「んだてめぇ…って!」
「おい兵頭じゃねぇか」
「やべっ」

 耳に響く低い声に名前の腕を引っ張っていた男子高校生たちは、その人を認識すると名前の腕をすぐに解いてどこかに行ってしまった。

「あ、の…」
「大丈夫、すか」
「はい。ありがとうございます」

 助かった。少し安心した名前は頭を下げてお礼の言葉を言い頭を上げると、そこには公園で見たあの男子高校生がいた。

「あ、」
「あ?」
「い、いえっ」
「あぁ…すんません。怖がらせてるつもりじゃなかった…んすけど」

 怖そうな見た目と目つきに名前はびくっと肩を揺らしてしまい、それに気付いた男子高校生は視線を逸らしながら謝ってくる。

「はやく帰ったほがいいっす」
「あ、はい」

 なんだか少しぎこちなく会話を交わしたあと、はやく帰ったがいいという男子高校生の言うことを聞いて、もう一度お礼を言ってからその場を離れた。
 名前に絡んでいた人たちにガンつけていた男子高校生はしっかりと敬語を使って話していた。なんだかそのギャップに名前は関心を覚えた。この人の彼女ってどんな人なんだろう、と少し気になった。



「はぁ?男に絡まれた!?」
「な、菜緒ちゃん!声大きいっ」
「ごめん。じゃなくて!もう、気を付けてって言ったじゃない」
「だって、本読むのに夢中で…」
「だってじゃない」
「う、…ごめんなさい」
「もー」
「で、でも助けてくれたしっ」
「誰が?」
「えっと…知らない人。制服からしてその人たちと同じ高校みたい」
「はぁ…もう。強化練習さえなければ…」
「そこまで心配しなくても大丈夫だって」
「現に絡まれたじゃない」
「それは…」

 話が終わらない。
 名前は昨日のことを菜緒に話すと、怒られてしまった。なんだか少し過保護みたいだ。まるで菜緒が名前の親みたいだ。
 そういえば、親に怒られたことないなぁと名前は思う。こうやって帰りが遅くなることを心配されたこともない。遅く帰ってきたって誰もいないし、いたとしても気にする様子もない。
 だから、菜緒にこんな風に心配されることが名前にとっては少し嬉しいことだった。

「でも助けてくれる優しい人がいてよかったね」
「うん。すごく怖そうな人だったけど…」
「どこの高校の制服だったの?」
「欧華高校だよ」
「え、O高!?」
「う、うん」

 驚きながら大きい声で反応する菜緒に名前は少し身を引く。そんなに驚くことだろうか。驚く理由がわからない名前。

「何、わたしなんかまずいこと言った?」
「まずいっていうか…うーん。不良が多いイメージなんだよね、O高って」
「そうなの?」
「なんかケンカが強い人がいるみたいで摂津がケンカ吹っかけてる相手がいるとかなんとか」
「そ、そうなんだ…」

 ケンカが強い人。昨日絡まれた男子高校生たちのような人が何人もいるのだろうか。想像しただけで身震いをする名前。自分が欧華高校じゃなくてよかったと心から思う瞬間だった。
 助けてくれたあの人も欧華高校であり、外見こそ不良のイメージは強いが、不思議と名前はケンカをするような悪い人とは思わなかった。

「とにかく!気を付けること。いい?」
「…はい」

 菜緒に強く注意されると、名前はしょぼんと小さく肩を落とした。



 放課後の図書室。今日もまた図書委員の仕事をしながら過ごす。昼休みに返却された本をもとも場所に戻す作業を淡々とこなす名前。残り1冊、と手に取った本は、咲也が借りていたと思われる戯曲の本だった。その本の定位置は、何人か利用しているテーブル席を通り過ぎた少し奥の本棚。本棚にたどり着いてこの本の置き場所を探すと、一番上の段にその場所を見つける。高いな、届くかなと思いながらも背伸びをしてどうにか戻そうとする。

「あっ」
「っと…」

 あと少しというところで手から本が離れそうになる。あっと声が出ると同時にその本は落ちる前に誰かの手が受け止める。その手から伸びる腕は名前の後ろへと繋がっており、後ろからは男の人の声。
 名前は顔を後ろに向けるとそこには同じクラスである万里が立っていた。距離が近いことに驚き、名前は慌てて身体を横にずらす。

「せっ摂津くん」
「おー。名字さんか」

 万里は余裕の表情で名前を見下ろす。そして受け取った本を、名前に位置を確認しながら本棚へと戻した。

「えっと…ありがとう」
「ん。名字さんって結構小さいのな」
「え」
「身長何センチ?」
「…秘密です」
「ふはっなんだそれ」
「………」

 身長のことを話題に出され、少しむっとした名前は身長を明かすことなく少しむすっとする。そう、名前は身長が低く、コンプレックスを抱いている。そんな名前に万里は軽く吹き出し名前はさらに頬を膨らませた。

「わりぃわりぃ。なぁ、オススメの戯曲ってどれ?」
「え?」
「名字さん図書委員なんだろ?オススメ教えてよ」
「いや、図書委員だけど、だからって何でも知ってるわけじゃないし…」

 そもそも万里が戯曲って。そう思った途中で名前は万里が劇団に入っていることを思い出す。

「摂津くんって劇団に入ってるんだっけ」
「んだよ、知ってたの?」
「佐久間くんが言ってた」
「あー咲也か」
「咲也くんに誘われて今度舞台観に行くことになったの。摂津くんも出るの?」
「いや。俺は咲也とは違う組だから出ねーよ」

 そういえばそんなこと言ってたっけと記憶を辿る。万里の演劇をしている珍しい姿を見られると思った名前は少し残念に思った。
 それにしても戯曲を探しに来るなんて意外に真面目だなあ。そう思いながら名前は万里を見上げる。あまりじっくりと万里の顔を見たことがなかった名前は、その整った顔を見て綺麗な顔だなと思う。

「俺の顔になんかついてる?」
「いっいえ」
「何挙動不審になってんの」
「な、なってないっ」

 こんな近距離でじっと顔を見てれば誰でもその視線に気付く。それでも気付かれたと焦ってしまった名前は少しばかり挙動不審になってしまった。

「演技の練習で使うの?戯曲」
「おー。俺秋組なんだけどよ、その組に大根野郎がいてよ」
「だ、だいこん?」
「演技がヘタクソなヤツだよ」
「へぇ…」
「そいつの演技の特訓にでも使おうと思ってな」

 万里が自分の組の仲間のために戯曲を探している。自分用でなく仲間のためにわざわざ図書室に戯曲を探しに来た万里のまたもや意外な一面を知った名前は目を見開く。万里はそんな名前に気付くことなく本棚に並ぶ本を眺めてよさそうな本を探していた。

「摂津くんって仲間思いなんだね」
「は?」
「だって図書室に来ること自体ほとんどないのに」
「あー。まぁ俺一応リーダーだし」
「え、そうなの!?」
「そんなびっくりすることかよ。つーか兵頭のやつが全然できねーからよ…」

 ぶつぶつと文句を言いながらも本を探し続ける万里。新たに出てきた名前に誰のことだろうと思うが、会話の流れから同じ組の人なんだろうと解釈した名前。兵頭という人はどうやら演技が下手らしい、と名前の脳内にインプットされた。
 そういえば兵頭ってどこかで聞いたような、と名前は首を傾げるが、その人物が思い浮かぶことはなかった。

 名前は今までに咲也が借りていた戯曲を万里にオススメしようと、万里の隣で本を探した。








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