休み時間。名前は次の授業の準備をしながらふと教室のドアのほうを見ると、教室を覗いている咲也の姿があった。誰かを探しているようだ。
 そういえば第二回公演っていつから始まるんだろうとふと名前は思う。

 咲也に舞台の観覧に誘われてから2週間ほど経っていたが、まだ詳細を聞いていなかった。
 まだ準備段階なのかな。舞台って観るの初めてだから楽しみだなと内心わくわくしていた

「名前?何にやにやしてるの?」
「え、わたしにやにやしてた?」
「うん。思いっきり」

 無意識のうちに名前の顔がにやけていたらしく、菜緒は名前の前の席の子がいないことをいいことにその空いている席に座って名前につっこんでくる。
 にやけているなんてだらしない姿を見られたことに名前は少し恥ずかしくなる。

「いやね、こないだ佐久間くんが舞台に誘ってくれて」
「え?舞台観に一緒に行くの?…デート?」

 今度はにやにやしながら名前の机に頬杖をついて菜緒が聞く。

「違うよ!佐久間くん、劇団入ってて舞台やるからって」
「なーんだ」
「なんだって…」
「そろそろ名前も彼氏作ったら?」
「うーん」

 菜緒には付き合って2年になる彼氏がいる。恋はいいよ、恋しなよっていつも名前に言っている。隣のクラスの人で、よく一緒に話してるのを見てるけど、その時の菜緒は名前といるときとは違う顔をしている。頬が緩んでいて楽しそう、というか幸せそうであると名前は思う。
 初恋もまだ経験していない名前には、その彼といるときや彼の話をしているときの菜緒の気持ちが理解できなかった。

「佐久間って劇団入ってるんだ」
「うん。もう一回目の公演も終わってて、次は二回目の公演なんだって」
「っていうか名前、佐久間と仲良かったっけ?」
「図書室でたまに会うんだ。佐久間くん、よく演劇の本借りてるし」
「ふーん。さっきからドアのとこで誰か探してるみたいだけど、名前のこと探してるんじゃない?」
「え?」

 もしかして、第二回公演の話しに来たのかな、なんて名前が思っていると目的の人物を見つけた咲也がその目的の人物のもとへ足を運んだ。
 まわりが少しざわついたような気がした。その目的の人物は意外にも摂津万里だった。名前は内心驚く。

「万里くんっ」
「んあー?」

 万里は自分の席でスマホをいじっていた。スマホに夢中で咲也くんが近づいたことに気付いていなかった万里は、咲也が万里を呼んだことでその存在に気が付き顔を上げた。

「おー咲也。どうした?」
「えっと、今日数学の教科書忘れてきちゃって。よかったら貸してほしいんだけど…」
「いーけど。俺のロッカーにあるから持ってっていいぜ」
「ロッカー?万里くん持って帰ってないの?」
「持って帰る必要なくね?」
「…すごいね万里くん」

 万里は学年5位以内に入るくらい頭がいい。そして勉強もスポーツもなんでもできちゃう完璧な人。っていうことを名前は聞いていた。顔も美形でかっこいい。ただ、よく喧嘩をしているというヤンキーらしいということもあってなかなか声もかけづらい。
 名前は初めて万里と同じクラスになって、正直大丈夫かなと心配に思っていたけど案外絡むこともなく平和に過ごせている。万里はかっこいいこともあって女子からの視線もよく浴びている。名前はその様子を幾度と見てきていた。

 そんな万里に咲也が仲良さそうに話していて、教科書まで借りに来ている。どんな接点があるのだろうと名前は考えるがなかなか接点が見当たらない。

「あ、名字さんっ!」
「へっ」

 万里との会話を終えたと思ったら名前の姿を見つけた咲也が名前を呼んで近づいてきた。いきなりのことで名前は変な声が出る。

「次の公演のことなんだけど、近々フライヤー持ってくるね!」
「フライヤー?」
「うん、宣伝のチラシのこと」
「佐久間って摂津と仲いいの?」

 余程気になったのか、菜緒が咲也に万里との関係を聞いていた。万里をちらっと見ると、またスマホに集中していた。

「万里くんもうちの劇団の団員なんだ」
「「え」」
「こないだ万里くんが所属する秋組の公演もやったんだよ!」
「摂津が、演劇…」

 秋組というのは、劇団の中の組のひとつのことである。まさか万里が劇団に入って舞台に立っているなんて想像もしていなかったし衝撃だった。菜緒もそう思っていたらしく目が見開いている。
 演劇とかそういうの、まったく興味なさそうでありめんどくさいって思うタイプだと名前は思っていた。でも、万里が演じるってどんな感じなのか気にもなった。

 休み時間の終わりを知らせるチャイムが鳴ると、咲也は慌てて自分のクラスに戻っていった。



 今日は職員会議のため部活は休みであり、名前は菜緒と一緒に帰宅することになった。放課後になると部活に向かう生徒たちも、今日は一斉に玄関に向かう。いつもと違う放課後にみんなどこかしら楽しそうだ。

「ねぇ名前!あのクレープ屋さん行ってみようよ!公園の!」
「そういえば今日、水曜日だね。行こ!」

 初日は行列がすごくて諦めたけど、今日は並んでても菜緒と一緒だし、あの日少し看板やクレープを買って食べている人たちを見て食べたいと思っていた名前は快く同意した。
 たわいもない話をしながら歩いていると、目的の公園に着く。あの日ほどではないがやっぱり女子中高生が多く並んでいた。

「へー、結構人いるんだね」
「ね。初日も通りがかったついでに覗いてみたら結構並んでた」
「でもなんか美味しそう。並ぼ?」
「うんっ」

 二人は少しわくわくしながら列に並ぶ。そしてまたたわいもない話をする。今日は万里が演劇をしているという新たな情報を得たから、その話も少ししていた。
少しずつ列が進んでいく中、名前なんか視線を感じるなとまわりを見ると、離れたベンチに一人、学ランを着た男子高校生が座っていた。

「あれ…?」

 男子高校生が以前もここで見た人と同じ人だと名前が認識すると、また彼女と一緒なのだろうかと思う。名前はじーっとこちらを見ている男子高校生をじーっと見つめ返す。しかし目が合っているような感じはしなかった。

「どうしたの、名前?」
「いや、」

 なんとなくそっとしておいたほうがいいのかな、なんて思い何でもないと誤魔化しす。
名前がクレープを買い終わって食べながら歩き、男子高校生が座っているベンチの前を通るときにちらっとその人を見てみると未だ行列のほうをじーっと見ていた。



 うん。このクレープ美味しい。名前は先ほどの男子高校生の姿を片隅に、楽しみにしていたクレープを頬張った。






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