月影と道 | ナノ

月影と道

ある秋の日のこと



ある春の日、君に恋をした。高校一年生になったばかりの俺には何もかもが新しく、学校の周りを埋め尽くすように生える桜の木に心を踊らせていた。きっかけは何だっただろう。彼女が俺に声をかけてくれたところから始まったのはよく覚えている。窓の外には桃色の絨毯と、それを作る桜たち。その春出会った彼女に俺は恋をした。一つ年上だった。そして出会って一年、ちょうど今年の春に付き合うことになった。彼女からの告白だった。
順風満帆な付き合いは半年ほど続いた。喧嘩やすれ違いもたまにはあったけれど、幸せな日々だった。
そして春とは真反対の、これから世界は寂しい色になっていく季節。突然別れを告げられた。理由は確か受験勉強に集中したいからだった気がする。記憶に自信が無いなどどうにかしているけれど、それだけ曖昧に告げられた。あっさりと終わってしまった恋だけれど、何日経っても彼女の声や温もり、笑顔が離れない。
窓の外に居た希望を持ったように咲いた桜達が、今ではすっかり消えてしまった。散ったあの桜の花びらたちはとこへ行ってしまったのだろう。

……

ある秋の日、君に恋をした。
私達の学校は桜並木が素晴らしいと近所でも有名だ。満開の桜と、散った後の桃色の絨毯。それを目当てにこの学校を受験する者も中には居るらしい。そんな桜の綺麗な季節とは真反対の季節。春には桜が一面を埋める地面も、落ち葉ばかりだ。綺麗な桜の木の下で出会って恋に落ちてしまったのなら頷けるのに、そんなものはまるで遠い日の出来事のよう。

彼は良くも悪くも目立つ人だから、クラスは違えど存在も顔も名前も評判も知っていた。何度か廊下で見かけた事もある。格好良いな、整った顔立ちだなとは思うけれど、これと言って興味を示さなかった私が、たった一目で恋に落ちたのだった。
私の数少ない男友達である忍足謙也君の友人、白石蔵ノ介君。中庭を見つめていた彼が徐に目を瞑り顔を上げながら再び開く。悲しそうに今でも泣いてしまいそうに空を仰ぐ彼の横顔はあまりにも綺麗で、目に焼き付いて離れない。たったそれだけの一連の動作が、目を閉じるだけで新しい出来事のように幾度となく思い出される。私はあっさりと彼に恋をしたのだ。

彼の事は何も知らない。名前と顔と評判しか知らない。格好良くて人望も厚くて無邪気に笑う彼しか知らない。あんなにも今にも泣いてしまいそうな顔で、今にも濡れてしまいそうな瞳をその事実から逸らす様に目を閉じまた開くと寂しそうに窓の外を見つめたのかも何故なのか分からない。



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