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きっと世界に二人きり




「すきだよ」

ずっとその言葉が聞きたかったのかもしれないし、待っていたのかもしれない。いや唯夏に限ってそんな事あるまいと言い聞かせていた思春期男子の脳内は四六時中好きな子でいっぱいな訳で、その四文字の意味をきちんと理解して嬉しくない訳が無い。これでもかと言うほど嬉しいし、何なら今死んでも良い。寧ろ死ぬのなら今かもしれない。
俺も唯夏が好きで、どうしようも無く好きで、それを伝えるにはどうしたら良いのかと口を開くと、ずっと噛み締めていた想いが顔を覗かせた。

「唯夏はほんまに……狡いやっちゃな」
「今しか無いと思ったの」

へへ、と笑った唯夏は初めて会った時よりも、昨日よりも、可愛くて綺麗で、誰よりも綺麗で、やっとの思いで見れた顔が愛らしくて、涙がまたポロポロと零れた。

泣かないで、笑って。

唯夏から聞こえた言葉はまるで今唯夏から発されたのではない様な声で、幻聴かと思いもう一回言ってくれと頼むと、泣かないで、笑って、とやはり聞こえた。
俺が初めて唯夏の前で涙を見せた幼いあの日が蘇る様で、俺は精一杯笑ってみせた。きちんと伝えなければ。唯夏は俺に想いを伝えてくれた。好きだと言ってくれた。俺も、お前が、

「俺も好きや…唯夏」
「……嬉しい」
「俺と付き合って下さい」
「ごめんなさい」

何でやねん!と、ついいつものノリでツッコむと、唯夏は依然として笑っていたが、薄っすらと瞳を揺らしていた。何で?と蚊の鳴く様な声で問いかけると、唯夏はそっと視線を手元に落とした。長い睫毛が見ないでと言わんばかりに伏せられる。

「終わりって、どうしても来てしまうものだから」
「は?」

盛り上がってたのは俺だけかと突然頭を殴られた様な衝撃に耐えきれず、唯夏の言葉に少し食い気味に、喧嘩腰に、反応を示してしまう。
小さい頃は隣接する家の窓に触れる事も出来なかったけれど今となっては手を伸ばせばすぐ唯夏に触れられるぐらい、唯夏を抱き締められるぐらい近いのに、本当は今すぐ触れたいのに、抱き締めたいのに、そんな事も出来ないのは、唯夏が今にも消えてしまいそうに苦く笑うからで。唯夏の言う、どうしても来てしまう終わりというものが今すぐそこにまで来ている様で、これが全部夢なら早く醒めてくれと、唯夏の言葉が撤回されても良いから終わらせないでくれと、そんな短時間でぐるぐると後ろ向きな事を考えた。

「いつまでも永遠に謙也君の側に居られる訳じゃない」
「じゃあ終わりまで一緒に居よう」
「私はいつまで私で居られるか分からない」
「そんなん俺も同じや、俺だっていつ俺でなくなるか分からん」
「でも、」
「終わりが来たって良い、それがいつでも構わん、俺は唯夏と一緒が良い」
「私、も…」
「俺はその終わりとやらが来るまで唯夏を守るんや、唯夏と一緒に居られるなら何だってする」

あまり脳を通らずに発した言葉なのに胸を張ってそう言えたのは、紛れもなく俺の本心だからだろう。俺は唯夏と一緒に居たい。
こんな幼さで唯夏が何を恐れているのかは分からないけれど、唯夏の言ういつか来てしまう終わりというものが来る日まで俺は俺で居るし、唯夏の為に出来る事は何だってしてやりたい。少しでも多く唯夏の笑顔を見たい。

「唯夏の隣に居たい。唯夏が好きやから、大好きやから」

一度口にした想いは躊躇う事も無く止まる事も知らずに次から次へと出てくる。寧ろ今まで何を恥ずかしがっていたのかと、何をウダウダと躊躇っていたのかと思う程、唯夏への気持ちを言葉にする事は清々しくて、美徳の様で、唯夏に伝わったのだと思うと、もう救いようが無いぐらい唯夏が愛おしく思えてしまう。
婉曲的に言うなどという事は俺自身知らないし、馬鹿な唯夏の事だから伝わりもしないのだろう。それならもう、回りくどい事は何もしない。俺は唯夏が好きだ。

「俺と付き合ってほしい」
「謙也、くん……」
「他には何も求めへん。唯夏の恋人として唯夏と一緒に居たいんや」

何処かを彷徨っていた視線が強く唯夏を捉える。俺の瞳の奥を覗く様に俺を見つめる唯夏もすっかり目を逸らせない様で、濡れた瞳で懇願していた。私も謙也君の側に居たい、と。

誰よりも俺をドキドキさせる人。それでいて安心させる人。ずっと一緒に居たいと思わせる人。狡い人。好きな人。愛おしい人。


幼いながらも君が好きだ、と、君しか要らない、と。そう、強く思った。


「……はい」

小さな声だったけれど確かに愛おしい人が俺の願いを受け入れてくれたのを確認すると、もう今が終わりでも良い気がした。

終わりというものが君を拐って行く日が来る日まで、君が終わりを望む日まで、共に居たいと、強く思った。君が望んだ結末は全て君に捧げたいと、強く。



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