時折、彼はきれいだ、と思う時がある。

根本的に掘り返して考えれば男にきれいも何もないのだが、外見を見てきれいと言うそれ以上に、殊更に美しく光るのはその色の違った両の瞳だ。
薄く空の色を被った銀、その下の夜の青と朝の朱。まるで空を体現したようなそれらを持つイヴェール。
そんな彼が何かに興味を持ったときは、瞳がそのままの空のようにきらきらと輝いてとてもきれいだ。井戸の底から見上げる夜の空をきれいと思うのと同じように、それは嫌いではなく好きの部類に入るのだろうと自分でもちゃんと自覚してはいる。ただ、


「…あんまり見つめられると、居心地悪いんだけど」


黙り込んだままで数十秒間ひたすらにあちこちを眺め回され、いよいよ耐え兼ねて声をかけると大きな両目がぱしぱしとまばたいた。どこに興味を持ったのか、青と朱がまたきらきらと光を持って揺れている。


「ふわふわの髪でしょー、ひとつ結びのしっぽでしょー、それから、」

「……なに、考えてるの?」

「あのね、同じところ探ししてるの!」


じっと黙り込んで何を考えているのかと思っていたら、突然喋り出した。内容の意味も、その意図もさっぱり読めなくて問いかけると、両手で指折り数えていた視線を上げ、すっと目を細めて笑いかけられた。きらきら、互い違いに主張する瞳がきらめく。そうか、共通点を探してるのか。ゆっくりと、ぼんやりと思考した。


「後は、僕もメル君も人形と仲良しだし、リボンだし……」

「リボン?」

「髪留めが!それと、引きこもりだし」

「イヴェール自覚してたの」

「うん、何回もエリーゼとうちの姫君にも言われたし。でもそれはお互い様でしょ?これでもちょっとは出るようになったんだよ、メル君と遊ぶにはこっちから行かないとだし」


幾莫か大人びた口調で自慢気に言うけれど、ここ以外には行ってないわけだからそういう問題じゃないと思う。そう言うとさらりと笑って誤魔化された。

直後、ずいと目の前に突き出された両手にびっくりして軽く身を引く。右手二本左手三本、合計五本の指が立てられているのが見えた。

「ほら、五個も同じところあったよ!」

「……だから、なに?」

「僕とメル君は似た者同士ってこと!あのね、似た者同士は仲良くなるものなんだよってサヴァンが言ってたんだよ」

五個もあったから、僕たちすっごく仲良しだねと言ってまたにこりと笑う。そうだ、彼は本当によく笑って、そのひとつひとつがまたきれい、なのだ。一体どうしたらこんなにもきれいに笑えるんだろう。……きっといい人達に囲まれているんだろうな。それとも、毎日を、物事の一つ一つを、心の底から楽しんでいるからなのかな。

なんてぼうっと考えていたら、イヴェールがきれいな顔を不安そうに歪めていた。すがめられた瞳がゆらゆら、ゆらめく。不安そうな声色が小さく零れる。

「違うの…?」

「…うん、そうだね。仲良しだ」

イヴェールの気持ちと共に暗く沈んだ空色の目が本当に悲しそうで、それを見ているとこっちまで悲しくなってくるような気がしてきて、ぽふん、宥めるように僕と良く似たふわふわの髪を撫でた。自分のものよりも若干短い銀の髪はするすると指通りがよくて気持ちが良かった。途端にまた輝くような笑顔に戻るイヴェールに、やっぱりきれいだな、と思う。ふと、ただ思っているだけなのはなんだか一方通行な気がして、少しだけ躊躇ったけれどそっと口に出してみた。


「イヴェールってきれいだね」

「僕が、きれい?」

「うん。色んなところが」

「きれい、なのかな?考えたことがないからよくわからないや」

でも、嬉しい。ありがとう。そう言うとまた、今度は少し照れたように笑った。

僕にはそんなにきれいなところなんてないけれど、でもだからこそ余計にイヴェールのきれいを見ていたいな。きっとさっき頭を撫でたのもそう感じたから。
ひとつくらい違うところがあっても、5つも同じところがあるなら大丈夫だよね。



End.




あとがき
冬闇、というか闇冬というか…なんだか微妙な感じになってしまいました。
これがMarchenが発売されてから初めて書いたものなんですが、なんとまあメルヒェンのキャラの違うこと!
つまり、精神年齢が低すぎる(笑
うちのイヴェールも性格は子供なんですが、年功序列で言えばメルヒェンの方が若干年上かな、と思って書いてます。
いつか原作っぽい性格のメルヒェンも書いてみたい。


2011.03.08 加筆修正


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