ぐい

二人ともが幼かったある日、そんな効果音でもつきそうなほどの早さで近づいてきたかと思ったら、さらにも顔まで目と鼻の先に寄せてきた悠弥。

「な、なぁにゆーや?」

寄せられた私の方がびっくりして目をぱちぱちさせてみても、寄せてきた悠弥の方はまばたきひとつせず更に顔を近付けてまっすぐ瞳を見つめてくるだけ。

え、な、なに?いまなにがおこってるの?

幼かった私には何も言葉を発することのない悠弥の意図なんかもちろん全く理解できるわけがない。

悠弥はその頃からちょっとばかし…いや、かなり謎の多い子供だったからそのままスルーっていうパターンを使っても良かったんだけど。
でもなんかの映画の影響だったか、当時不純な方向にしか働かなかった私の頭に浮かんだのは…。

(もしかして…ちゅー!?)

ずっと動かないで見つめてくるってことは、ちなが目閉じるの待ってるんじゃないの!?

そうと決まってしまったらちびっこってのは即行動。
両方の視界を真っ暗にして、できるだけ大人っぽく待ってみる。
でもいつまで経っても悠弥がこれ以上近づいてくることはなくて、不思議に思ってうっすら目を開けようかと悩んだ、その瞬間。

「うわあ!すごーい!」

どたどたっ!と慌ただしい音がしたかと思ったら、もう既に目の前には跡形もない悠弥の姿。

小さい胸ながら期待をいっぱいに膨らませていたのに、まるでその期待を裏切られたような気持ちに陥った私はただぽかんと口を開けるだけ。
でも、それとは裏腹に下の階からは悠弥のさも楽しそうな高い声。

「ママ!ちなのめね、かたっぽずついろがちがうんだよー!」
「えー本当?ママにはどっちも茶色に見えるけどなぁ。」
「ちゃいろだけどちがうよ!かたっぽがうすくて、かたっぽがこいの!」

なーんだ。ちゅーじゃないのか…!
ようやく謎だったあいつの意図が理解できて、悠弥と悠弥のお母さんの言葉を聞きながら一人でちょっとがっかりなんてしてたんだけど。

でも、今思えば…。


「俺、ちなの目の色好きだよ。」

あのときよりも更に近い、正にキスの寸前の位置で微笑む悠弥に思わず頬を赤くしながらもふと表情が緩んでしまう。

結局目の色は光の加減でそう見えただけだったし、キスだってしなかったけど。

悠弥にどきどきしたのは、あのときが初めてだったな、なんて思い出して。

「ただの焦げ茶じゃん。」
「それが良いの。」
「悠弥の目の方がよっぽどきれ…ん…。」

私より幾分透き通った色の瞳を嬉々と輝かせて、どうやら不意討ちの成功を満面の笑みで喜んでいる様子の幼なじみ。
そんなちょっと幼い頃を思い出させるような、いわゆるちびっこみたいな表情にすら更に心拍数を高めている私はまぁ、末期ってやつなのかと。

(どれだけ長い間、私は悠弥にどきどきさせられるんだろうね…?)

「…ばーか。」
「うっせ。」

それはきっと、これからずっと。


しんぱくすう
(君もどきどきしてくれてるの?)


>>>>>>>>>>
12/23〜1/20の拍手お礼でした。
小さい頃のお話ということで、リクエストありがとうございました!
ちびっこはほくほくしますね。保育園に遊びに行きたい…。

20100120 しろ




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -