「ちなはさ、俺の“いも”だね。」
「は?“いも”…?」
久しぶりに悠弥ではなく私の部屋で、テスト勉強の真っ只中。そして、悠弥のこの発言。
話にはつじつまってもんがあるもんで、悠弥の楽しそうな笑顔の意味も、もちろん“いも”の意味も理解不能すぎて自然と私の首が右へと傾いた。
「あの、それはどういう…?」
「え?どういうって、だから“いも”でしょ?」
「はぁ…?」
さっきまで悠弥が熱心に視線を注いでいた数学の教科書に書いてるのか…?
でももちろん可能性的には数学の教科書には問題文の例にしか“いも”なんて言葉はのってるはずなんてこれっぽっちもあるわけがない。
実際にカバンをあさって自分の教科書を見てみても、私は例題にすら“いも”を見つけられなかった。(大体の場合みかんだし。)
「ねぇ悠弥。」
「んー?」
「もしかして…侮辱してる?」
「………は?」
私が教科書の中の“いも”探しをしている間にもさらさらと音を鳴らしていた悠弥のペン先がぴたりと止まって、部屋の中が無音になる。
だ、だって“いも”って…芋でしょ?
芋娘とか、野暮ったいってことでしょ…!?
そんな思考の中、私に向けられ続けている丸っこい大きな瞳が特徴的な万人受けするそいつのお顔は、今みたいにぽかんとしたいわゆるアホ面でもかっこよく見えてしまうわけであって。
(ぶ、侮辱されてるとしか思えないんです…!)
「あのね、これは認める。確かに私はどう頑張っても悠弥みたいに容姿端麗にはなれないよ。」
「はぁ…?」
「でも“いも”って…芋はいくらなんでも酷いんじゃないですか…!」
私の言葉に眉をハの字に下げてぱくぱくと開けっ放しだった口が次第に緩められて、次の瞬間に響いたのは悠弥のさも楽しそうな大きな笑い声。
(こいつ、笑うなんてやっぱ侮辱してたのか…!)
私の中では悠弥に自分が劣っていることくらい十分なほどに承知済みだったけど、さすがにご本人の口から言われてしまうとぐさっとくるものがあって少し心が痛くなる。
もともと理解しにくい部分が多くていまだに悠弥の実体は掴めていないけど、まさかこんなに嫌なやつだったなんて…!
「最悪…。」
いまだに爆笑中の悠弥に冷ややかな言葉を被せても、反省の色なんてまったくもって一切なし。
もう帰ってよ…!
その一言が口から飛び出そうとしたその時。
「いや、ちなさ、ここ見てみ?」
軽く笑いすぎで涙ぐんでいる悠弥の綺麗な指が向けられたのは、数学ではなく私の古典の教科書の一角。
なによ、なんてむくれながらもその指の先を見てみると、そこにあったのは。
妹(いも)
自分の妻、または愛する女のこと。
「え、ちょ、え…!?」
「ね?“妹”でしょ?」
さっきまであれほどに憎らしかったにやにや笑顔に、今度は一気に火照ってしまう。
そんな私に更に喜ぶ悠弥がなんだかとても愛しくて、でもやっぱりちょっと憎たらしくて、柔らかい頬に口付けてその余裕を奪ってやった。
ときどきあなたがわかりません
(もうちょっとわかりやすいこと言ってよね!)
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11/26〜12/23の拍手お礼でした!
試験中のあほすぎる思いつき(笑)
でも結構気に入ってます。この二人はこんな感じがちょうど良いですね!
20091223 しろ
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