嫌な夢を、見た。
いつも二人で過ごす日曜日。なのに、俺の隣にちながいない。
妙な胸騒ぎがする。部屋がやけに広い気がする。ちなの温もりが、ない。
ふと下へと目線を向ければ、ローテーブルの上にはまるでドラマのワンシーンのように綺麗に並べて置かれているなにか。
それは今俺の薬指にあるものとお揃いのちなへの婚約指輪と、まだ付き合い始めのときにプレゼントしたシルバーのシンプルなネックレス。
そして。
『ばいばい、悠弥。』
ただそれだけが書かれた、真っ白い紙切れ。
こんな、夢。
息が苦しい。空気を取り入れようと開けた唇は、乾いていたのか切れて血の味がする。
まだ寒い時期だというのに全身冷や汗でぐっしょりと濡れていて、うざったくて仕方がない前髪を掻き上げようと手のひらが触れた頬には涙がいくつも通っていた。
こんなこと、想像もしたことがなかった。
ちなの居場所は俺の隣。
それは昔から、いや、生まれたときから当たり前だったことで、これから先も絶対に変わるはずのないこと。勝手にそう思い込んでいた。
そう、ちなは俺にとって当たり前の存在なのだ。
それはとっても嬉しいこと。当たり前にそばにいてくれて、当たり前に受け入れてくれて、当たり前に俺に微笑みかけてくれる。
こんな幸せ、他にはない。
だけどそれは、俺が当たり前だと思い込んでいただけなのかもしれない。
もしかしたらさっきの夢みたいに、ちながいなくなる日が来てしまうのかもしれない。
それに俺が気付いてないだけで、ちなも俺がいなくなる、なんてことを不安に思って泣いているのかもしれない。
そんなの、絶対に嫌、だ。
二人がずっと一緒にいるなんて、実は確証なんてひとつもないんだ。
だけど、互いを大切に慈しみあって、精一杯の愛情を注いで一日というものが完成する。
それがひとつずつ重なって、たくさん集まることでずっとっていう言葉が生まれる。
そしてずっとは、同時に当たり前になる。
一日一日に確証はなくても、互いを想い合うことで当たり前を生み出すことができる。
そうだ。当たり前というものは、決して感じるだけものではない。存在しないものでもない。
二人で作りあげていくものなんだ。
二人で作り上げることができて初めて、感じることのできるものなんだ。
隣でもぞりと動いた影を見ると、そこにはまだ十分あどけないと言えるであろう愛しい人の寝顔。左の薬指には、しっかりと俺と同じ指輪の姿。
まだ体温の戻らない指先でそっとその柔らかい頬に触れると、じんわりとちなの温もりが伝わって凍った体が溶かされていく。
また涙がじわりと滲む。
ねぇ、ちなは俺との間に当たり前を感じてくれてるのかな?
俺は生まれてからずっと、ちなとの間に十分なくらい当たり前を作ってきたつもりだよ。ずーっと大切にしてきたつもり。
でも、ちなが感じてくれていないのなら、いや、感じてくれていたとしても。
まだまだ作り足りないよね。
これからもっと、当たり前を作っていこう。
それで最後に、当たり前だったね、って笑いあえるようにしよう?
「……ね?」
触れるだけだった頬を包んで、寝息を立てる唇に優しく優しくキスを落とす。
そしたら寝ぼけたちなが俺の名前を笑顔と一緒に呟いて、滲んだ涙が俺の頬からベッドへ落ちた。
大好き
(改めて、想うよ。)
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2010/4/4から2011/8/20までの拍手お礼でした。
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20110820 しろ
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