私の中に、あなたを感じる。
私の中に、“私”を感じる。
甘い
『ねぇ、今年はサンタさんになにもらうの?』
昔、親にそう聞かれて困ったことがあった。
なんでかって、欲しいものなんてなんにも無かったから。
別にたくさん物を買ってもらったおぼえもないし、むしろクリスマスはなにかひとつだけサンタさんに貰える私にとって重要な日だったけど、ただ純粋に、本当に欲しいものがなかったから。
『ないよ。』
本当は正直に言いたかったけど、目の前にある親の楽しそうな顔を見てたらなんとなくこんなこと言えなくなって、大きいテディベアって呟いた。
そしたら本当に背丈と同じくらいのくまのぬいぐるみが枕元に置いてあって、嬉しそうな親に(とくに嬉しいわけでもなかったけど)私も嬉しそうな顔して、テディベアの首に腕をまわしたんだ。
思えばこの頃からだった。私の中に“私”はいなかった。
中学に入っても高校を卒業しても、私の中に諦められない存在はなかった。
確かに欲しいものやしたいことはあった。友達とどこかに行きたい、本を買いたい、そんなことはしょっちゅうあった。
でも、すべては諦められる範囲だった。
“まぁいっか。”その一言ですべては片付いたのだ。
強い願望が無い。何かを強く欲する自分がいない。
一般の底の底に沈んでる。唯一無二の“私”は存在しない。
私の中に“私”はいない。
いなかった。
「なーに考えてんの。」
寒さで紅潮した頬に、温いマグカップがあてられる。
その熱すぎない熱がとても気持ち良くて目を閉じると、リラックスするなって軽くカップで小突かれた。(痛くないけど。)
「ホント、何考えてたんだよ。」
「んー?」
「いや、んーじゃなくてさ。」
「ひみつー。」
「…変なやつ。」
納得いかない顔で、自分のコーヒーに口をつける。
そんなあなたを私が笑うと、こんな私をあなたも笑う。優しく笑うあなたを見ると、私の中の“私”も笑った。
ねぇ聞いて。今ね、“私”を感じるよ。
やっと生まれた私の中で、全力で今を生きてるよ。
愛しい、寂しい、悲しい、嬉しい。そんな気持ちで溢れているよ。
「なぁ夏穂。」
「なに?」
「…なんでもない。」
「どーしたの?」
本日何度目かのこのやりとりに、またひとつ笑みを零す。なぜか頬を真っ赤に染めた彼との距離を少し縮めて、投げ出されていた左手を握った。
あのね、諦めのつかないこともたくさんできたんだ。
例えばほら、あなたのこと。
男の子のくせに少し柔らかい手のひらとか、すらっとした長い指とか。
もう離してやんない。ずっと握ってるんだから。
少しだけ握る力を強めると、不意をつかれたようにあなたの瞳がこちらを向く。
「…なぁ夏穂。」
「…なに?」
なんとなく恥ずかしくて握りあった手から目をそらすと、あなたの力も強くなる。
力は強いのに、あまりに優しいあなたの手に私があなたを見上げると、穏やかな声が降ってきた。
「結婚しよっか。」
甘い
(次に私に降ったのは、コーヒー味の唇でした。)
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うちのサイトって結婚ネタはあるんですけど、意外とプロポーズネタって無いなと思ったんで書いてみました。
あとは実体験ですね。中学のころ本当に欲しいものがなくって、私ってすっからかんだなって…。
まぁそんなことは良いですね。では!
20090828 しろ
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