『でな、こないだなんか授業中に寝てるのばれて廊下に立たされてさー…。』
「今どき古風な…。」
『だよな!ありえない話だよな!』
通話時間、二時間半。うるさかった母さんも呆れ返って注意することすら諦めたみたいで。
最近定期的に刻まれるようになった君からの着信履歴。同じ曜日の、同じ時間。
特に約束なんてしていない。でも必ずかかってくるこの電話はもう既に私の生活の一部になっていて、かかってこない日なんて逆に心配になって私からかけてしまうくらい。
くだらないことで盛り上がって、懐かしい話で笑って、悩みの相談なんかも受けちゃって。
それだけで良かった。君に親友って受話器越しに笑ってもらえたことが嬉しかった。私にとっても君は大切な親友だったから。
だけど、気付いたんだ。
私の中の君が親友から遠のいていくこと。感情の種類がだんだん甘い方向へと向かっていってくこと。電話が終わった後に頭の中を切なさが埋め尽くすこと。
この感情がなにかなんて、もうわかってる。甘くて、脆くて、愛しい感情。
だけど、言っちゃだめなんだ。
君にとって私は『親友』でいなくてはならない。それ以上の関係を求めてしまってはだめ。
これ以上、近づいてはいけないんだ。
「ねぇ、今何時?」
『え?あー…11時。』
「…喋りすぎだね。」
『…なにを今更。』
私のに重なる君の声が、痛いくらいに愛しく響く。
本当はもっと喋ってたい。寝る時間なんかいらないくらい。同じ時間を過ごしていたい。
だけどだめだ。これ以上話すと零れてしまう。今でも溢れるものを抑えてるんだから。
ほら、良いタイミングじゃない?今こそ電話を切るときだ。いつもは君から切るけれど、今日ぐらい私でも良いじゃない。
ほら、言え。今言わないと、私は…。
『…なぁ夏穂。』
「え、あ、なに?」
あのね、と出かけた言葉が君の声に制される。
早く切らないと、言ってしまう。だけど、いつもよりちょっとだけ甘えた君の声に一方的に切ることなんてとてもできなくて、結局私は受話器を持ちなおした。
『俺ね、夏穂みたいなひとと結婚したい。』
「………へ?」
『お前さ、俺の理想って言うかなんていうか、夏穂と一緒になれるやつは幸せだなーって思うんだよ。』
「……んなこと言ってもなにも出ませんが。」
『ばか、本気だっつの!』
そんなこと、言わないでほしい。
私は君を好きになってはいけない。君にこんな想いを抱いてはいけない。
だって、君には既に愛しい存在がいるから。
大体私に電話をかけはじめた理由も彼女が原因だったはず。喧嘩して、謝れなくて、でも別れたくなくて私に相談してきたんじゃないか。
「…浮気発言。」
『……は?』
「あのね、他の女の子にそんなこと言うなっての。それプロポーズなみに破壊力あるよ?また喧嘩したいの?」
『…嫌です。』
君は私の大切な『親友』だから。
親友には幸せになってほしい。それを願うのが当たり前でしょ?
だから、そのために私が犠牲になるくらいどうってことない。
でも、君は絶対に幸せなって。
別れたりなんかしたら、もう電話にも付き合ってやんないからね。かかってきても一生居留守だ。
「じゃあ浮気発言禁止!ほら、もう切ろう?彼女さんにばれちゃったら大変でしょ?」
『殺されます。確実に。』
「じゃあ今度ね?そんときまたいっぱい喋ろ。」
『…おう。』
さっきは押したくなくてたまらなかったはずのボタンを自分から押す。
震える手に水滴が零れるけど、そんなの気にしてなんかられなかった。
ねぇ、なんでもっと早く気付かなかったのかな?
私が君の理想なら、君は私を好きになってくれた?今ごろもっと近くにいれた?
でも、もうそんなの思っても仕方がない。決めたんだ。君が幸せなら良いって。
だから、今日だけ泣かせてね。君のこと全部流すから。親友の私に戻るから。
「好き、だよ。」
恋なんて全て、流れてしまえ。
愛してよ
(本当は君に、言ってしまいたかった。)
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愛してよ、というお題で飛飛さんに捧げます!
捧げものなのに悲恋…これぞしろくおりty←
んでは相互ありがとうございました!
20091019 しろ
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