彼女は俺を、いつもからかう。
いきなり後ろから抱きついてきて好きって囁いてみたり、彼女が目を閉じて黙るから俺からキスをしようと目を閉じた瞬間に自ら唇を押しつけてきたり、だ。
俺の反応がおもしろいのはわかる。だってからかわれた後俺の顔が真っ赤になってることは自分でも嫌でもわかるから。
別にからかわれることは嫌いではない。俺をからかうときの彼女の表情はまさに至福の表情そのもので、その笑顔にこの上ない愛しさを憶える瞬間が俺は大好きだ。
だけど、そろそろ俺にとっての限界ってものが近いわけで。
なにしろ……俺も、男ってわけ、で。
「ふふ、かーわいいっ!」
今の状況をなにもかも取っ払って説明するとしたら、押し倒された、だ。
押し倒すって…なんて怪しい言葉なんだろう。
そんなことを頭のどこかで考えた俺は、結果自らの頬を積極的に赤く染めてしまった。
でも、彼女は俺をからかってるだけ。その気なんてまーったくない。あるわけない。俺の上にただ座っているだけ。
一方、寝転がされた俺の視界には真っ白い天井と電球色の蛍光灯、そして俺の大好きな表情をする愛しい彼女。
また胸の奥がきゅん、と切ない音を立てる。
あー…好き。大好き。
ばかだと思うけど、ずっとその表情を見ていたくてたまらない。心の一番大事なところに消えないように焼き付けていたい。
でも、そんな穏やかなだけでは終わらせてくれない欲望が俺のときめく胸の近くでぞくり、蠢く。
だって考えてよ。
夏の暑さにかなりラフな服を着た彼女が俺を押し倒した場所は、いつもは安眠を求めて潜り込む柔らかなベッドの上。しかもあろうことかここは俺の、家。
想像しないわけ…ないでしょうが。
「あ、ちょ…!!」
「なーに?」
しかも俺が頭の中でよからぬ想像をしていると、いつの間にか彼女は文字通り俺の目と鼻の先の位置に。
そしてさっきまで微笑むだけだったぷっくりと形の良い唇を軽く尖らせると、俺の額にキスを落とした。
「な…つ…」
「どーしたの?」
でも、未だに彼女の瞳は子どもみたい。俺と言えば、まぁそりゃあ焦るわけで。
その上額だけで終わるかと思えば、赤らんだ俺に調子に乗った彼女の唇は頬へ、鼻先へ、唇へ。
そして首筋へは。
「痛っ…。」
彼女の所有印を。
この瞬間、俺の中で何かが弾けた。
いや、これはだめだろう。俺、男してなめられすぎだろう。
そう考えるが速いか、気付いたら形勢逆転。俺の目の前には愛らしい瞳を精一杯開いて俺を見つめる彼女が。そして俺は、その上に。
「あっ、かけ…。」
「うるさい。」
まずはその惑わせる唇を黙らせて。そうすれば彼女は俺にされるがまま。
なんだ、わかってんじゃん。
少し長かったキスのせいか、潤んだ彼女の瞳は悩ましげに揺れる。でも俺の背に回された腕の力はなんだか満更でもなさそうで。
「…翔の変態。」
「男はみんな狼って習いませんでした?」
俺のこの発言にも、返ってきたのはやっぱり満更じゃなさそうな愛らしい笑顔。
あー…可愛い。
ずっと見てたい。焼き付けたい。でも、そろそろ、
「…なぁ、夏穂。」
「…ん?」
「俺、さ。夏穂のこと…」
愛したいんだけど…良い?
「……精一杯愛してね、狼さん。」
「…了解です。」
照れた笑顔に、精一杯の優しいキスを。
それから俺は、電気のスイッチに手をかけた。
狼さん、こんにちは
(私も、だーいすき。)
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新ジャンル…!
ど、どうなんだろう…感想やらいただけると嬉しいです!
20100811 しろ
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