ふ、と微かながらも籠もっていた力が抜けて、腕が崩れ落ちた。
こんなにも温かいのに。部屋に響くのは心停止を示す冷たい音。

“ねぇ、笑って?”

そう最期に紡いだ口元は緩やかな弧を描いていて、まるでまだ生きてるみたい。

でも確かにわかる。もう彼女はここにいない。

ねぇ、今何歳?俺とおんなじ年でしょうあなたは。
まだまだやりたいこと、いっぱいあるでしょ?
ほら、映画。君、俺が新しい映画館の話したら行きたがってたじゃない。
ピアスだってあけるんでしょ?悪いことだってしたりないでしょ?

“一緒にいられるだけで、私は幸せなの”

ほら、またそんなこと言って。
だめなの、俺は足りないの。もっと色んなことあなたとやりたいの。

でももう無理、か。

彼女の顔をのぞきこむと、さっきと変わらずおだやかな顔。
もう、そんなに幸せそうな寝顔しちゃってさ、俺がその顔に弱いの知ってるんでしょう?
そんなに可愛い顔で止めないで。俺もそろそろ現実を受けとめなきゃいけないの。

あ、最期に一つだけプレゼントあげるよ。
眠り姫にはうってつけの、ね?

俺は少し身を乗り出して、彼女の唇に最期のキスを落とした。
それは何度もふれてきたはずなのに今は酷く冷たくて、はじめて一粒、涙が零れた。

「───…っ」

俺は現実を受けとめたんだ。


待っててよ
(何十年後、また会おうね)



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最初なのに死ネタですみませんでした;
悲恋ものしか書けなかった鬱気の作品です。実は結構気に入っていたり←
気に入っていただけると幸いです。

20090620 しろ



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