死ぬのなんて、怖くなかった。
元々僕は死ぬはずだった。母親の胎内で痙攣だったかなんかを起こして自力では生まれてこなかったし、泣き声すらもあげなかった。

なのに僕は生きていた。
奇跡的になんの障害もなく。そう、まさに“奇跡”だった。

こんな話聞いたことある?

“神様は一番大切なときに人間にひとつだけ奇跡を与えるんだって。”

生まれてくるとき、僕は奇跡をひとつ貰った。死ぬはずだったのに、生きるって奇跡をひとつ与えてもらった。

だからもう、いつ死んでも受け入れるつもりだった。
元々死ぬはずだった人間だ。それを少しでも生かせてもらったんだから、死んでも文句なんて言うべきじゃない。
覚悟なんてもうできてた。もし今この瞬間に死んだって、僕は神様にありがとうって言えた。

笑って、この世界を出ていけた。怖がることなんてまったく無かった、のに、


「翔!」


今僕は、死ぬのが怖い。
別に目の前に死が迫って来てるわけじゃない。体は至って健康だ。でも

「翔?聞いてるー?」

僕は生きる理由を見つけてしまった。
たまらなく愛しい生きる理由を。

ねぇ、なんでかな。僕は死ぬはずで、既に奇跡をひとつ貰ったんだ。
なのに僕は、あるはずのないもうひとつの“奇跡”を貰ってしまった。

君に出会って、二人一緒に恋におちて、今もこんなに近くにいれて。

これって奇跡だよね?
僕がこんなに愛しい生きる理由を、君っていう理由を見つけられたなんて、これ以上に無いほどの奇跡だよ?

神様、僕はあなたにふたつ目の“奇跡”を貰った。でも、返すつもりなんてさらさらない。

君ともっと、もっと一緒にいて、子どもを二人くらい作って、温かい家庭を持って、おじいちゃんおばあちゃんになるまで、ずっと、君と…。

「ははっ、欲張りだな。」
「誰が?」
「俺が。」
「……翔が?」

小さく君が首を傾げる。
なんでこんな仕草まで愛しいんだろ。やっぱり君は僕にとっての“奇跡”なんだな。

生きる理由を見つけたから、死ぬのが酷く怖くなった。
細くて良い。もっとずっと長く生きて、最期まで君といたい。

そしたら神様、あなたは怒る?僕は欲張りだって、何様だって僕を怒る?

でもね神様、よく考えてみて。
僕が欲張りになったのは、あなたのおかげだ。
あなたが僕に“奇跡”をふたつも与えたから、僕は欲張りになったんだ。

ひとつめで止めときゃ良かったのに、失敗したね?
従順な人間がひとり減ってがっかりしてるんでしょ。
でもね神様、僕はもう従順には戻らないから。
もっと君と、幸せにって、欲張りに生きてくから。

「まだまだ足りない。」

これからが良いとこ。止めるなんてしたら許さない。
欲張りなんだから、仕方ないでしょ?


“奇跡”
(神様、ありがとう。)


20091103 しろ



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