めがね王子


ふわーぁ、と大きなあくびをひとつして、眠そうな瞳をごしごしとこする白く繊細そうな右手。

そして机の上を漁るようにべちべちと叩いて、やっと見つけたというように耳へとかけられたメガネ。

黒縁メガネ。

「あああー!!」

目の前の人物は、私の奇声に驚いたのかなにかに弾かれたように一瞬椅子から浮き上がる。(そりゃ驚くよね…ごめん。)

だって、見たことなかったんだ。
メガネの奥の、君の、

「ふっくんかっこいいじゃん…!!」

その瞳がそんなに魅力的だと思わなかったんだもの…!

ちなみに説明しておくと、この寝ぼけ眼のメガネ少年はわが生徒会の風紀委員長、ふっくんである。

最初に言っておくが、この人の名前には“ふ”なんて文字はいっさい含まれていない。ただ風紀委員長である、ということだけで頭文字のふをとって私が勝手に名付けたのだ。

「うわああ!かっこいー!ふっくんじゃないみたいだったー!!」

ふっくんは寝起きが悪い。起きてから約三十分はこっちの世界とあっちの世界をいったりきたりなドリーマーなのだ。(あれ、なんか違う?まあ良いや!!)

例には例によって今も半分あっちの世界にいるらしく、状況が判断できてないふっくんを良いことに私はふっくんの隣に座って黒縁メガネをかっさらう。

「わっ、やっぱイケメン!!ねぇふっくんメガネやめてコンタクトにした方が良いって!」
「………うーん。」

返事のように聞こえるけれど、実際にはただの呻き声を零してあの白い雪みたいな手が今度は後ろ髪をわしわしとかき乱す。

それと同時に薄く開かれた、黒目がちな双眸。
その黒があまりにも深くて、ぼーっとしてたら吸い込まれてしまいそうで。

不覚にも、心臓が少し高らかな音を立てて。

たのに。

「う、わぁっ!!」
「……う、ん。」

がこん、と椅子が浮く音がしたかと思うと、急に重くなった右肩。そしてそこには、ふわふわとした猫毛頭。つまり。

「ふっくん起きて…!!」

寝てる人間は重い、とはよく言うけど、本当にその通りだと思う。
ちょっと上半身を預けられてるだけなのに、寝ぼけて抱きつかれるのがこんなに重いなんて知らなかった…!

「あぁもう!!ふっくん起きなきゃちゅーするぞ!」

昔、凛太郎に言うと必ず覚醒を達成してた言葉を発してみる。
もちろん、起きるわけがない。それに。

「あ、あの、ごめ…。」

……どこまでバッドタイミングなんだろう。

いつのまにやら扉を開けてこちらを困ったように見つめていたのは、今日私が会いたくて会いたくて仕方なかった、生徒会の白王子(黒王子はふっくん)、朔くんではないですか。

「ち、ちが…。」
「あっ、おいふうた!お前梨子から離れろ!!どういうことだ梨子っ!!」

おまけに朔くんの後ろからは書類を腕いっぱいに抱えすぎて扉につっかかってる凛太郎。悲しいことにこいつまでなんだか誤解しちゃってるし。うるさいし。
(ちなみに本当にふっくんの名前に“ふ”はつかない。いやこれマジで、本当に!)

「くそぅ…頼むからふっくん起きろー!!」
「うー、ん……。」


(役者はすべて出そろった。)

2010/04/07 08:46





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