「おいコラ温度下がってんぞテメェ!!やる気あんのか!?」
「そんなこと言ったって……」

 あまり熱くしすぎると火傷になってしまう。合宿中はリカバリーガールのお世話なることもできないし、何より今はわたしの“個性”も本調子ではないのだ。多少様子を見つつ、となるのも当然だと思うのだけれど。
 視線でそんなことを訴えてみたものの、爆豪あいつは 依然怒りの表情を隠そうともしないまま、湯の張られたドラム缶から引っこ抜いた腕を高く掲げて苛立ちをぶつけるように青空を爆破した。これだけの規模の爆発が至近距離で起こると流石に耳がもげそうになる。思わず顔を顰めたわたしを思いっきり睨みつけて、爆豪あいつは額の汗を乱暴に拭いながら吠えた。

「これっぽっちのぬるま湯で汗腺開くわきゃねェだろ……!ビビってねーで仕事しろ」
「いや、でも――」
「心配すんな、何かあったら即座にてめェごとぶっ飛ばしたるわ」
「沸騰させてやろうか?」

 あんまりな言い草につい買い言葉で返したけれど、相手は聞く耳持たない様子で再び腕をお湯の中に突っ込むだけ。でも確かに爆豪こいつの言う通り、お手伝いの癖にまともに役割を果たせないのなら、そんなのただ邪魔しに来たも同然だ。
 静かに呼吸を整え、改めて地面に手をつき、火のない焚火の上に掛かっているドラム缶に意識を集中する。この中に並々張られたお湯をちょっと熱めのお風呂くらいの温度に保つのが、今のわたしに課せられた役割だった。

 ――と言っても、あくまで暇つぶし・・・・のようなものだと思う。
 合宿二日目。早朝に叩き起こされたわたし達は訓練施設そばの森へと連れ出され、そこで“個性”を伸ばす訓練を本格的に始めることとなった。先生曰く、入学からこれまでのわたしたちの成長は主に肉体面や精神面でのものであり、“個性”そのもの・・・・についてはそれほど大きく変化していない――だから、合宿中はとにかく“個性”を使って使って使いまくり、それこそ筋肉と同じようにいじめ倒して、能力の底上げおよび上限の引き上げを試みようということらしい。
 わたしの目の前で熱湯風呂に腕を突っ込んでいる爆豪こいつは、お湯で汗腺を広げながら“爆破”しまくることによって威力上限の底上げ。近くで同じようなドラム缶風呂に浸かりながら炎を出したり氷を出したりしている轟くんは、自分の“個性”でお湯を適温に保つことで左右の同時使用に慣れるための訓練。そこでひたすら頭の玉をもぎっては捨てている峰田くんは頭皮の強度アップ、向こうで何かのアクティビティーのように崖を転がっているお茶子ちゃんは“個性”を使った時の酔い・・に体を慣らすための特訓、少し離れた場所で「ワンモアセッ!」とか何とか叫びながらエクササイズ的な動きをしているデクは、……あれはたぶん筋トレなのかな。とにかくわたしたちの周囲では、クラスのみんなが各々の限界を突破するため、地獄の苦しみを味わいながら特訓に励んでいるところだった。
 もちろんわたしもやる気満々意気込み十分で、先生に「わたしは何をすればいいんですか!」などと聞いてみたのだけれど――。

“おまえの訓練はまだ始められない。じきに相手が来るはずだから、それまでは――ぼんやり待ってるのも非合理的か。……まあ、お湯でも沸かして腕慣らししとけ”

 ……などと投げやり気味に仕事を割り振られてしまって、何故か一人だけ大した苦労もなくドラム缶の温度を上げる役になってしまっている。
 幸いなことに、昨日の騒動から一夜明け、色々と心境の変化なんかもあったおかげか、わたしの“個性”もだいぶ落ち着きを取り戻しつつあるようだった。相変わらず若干不安定な感覚は残っているけれど、普通にしている分には昨日のように大幅に制御が乱れることはないし、“熱”の方も今のところは特に何ともない。それでもやはり万が一、という不安はつきもので、探り探りで慎重に温度を上げようとしてしまうものだから、爆豪あいつの方からさっきのような暴言が定期的に飛んでくるというわけだ。

「つーか、ちょっとやそっとの温度じゃ火傷しねェよ」
「え?」
「てめェの手と同じだ――じゃなきゃ“個性”使うたびに火傷まみれだろうが。頭使えアホ」

 顰めっ面で寄越された言葉に改めて爆豪あいつの様子をよく見れば、確かに“個性”の使用による汗腺の疼きはあるようだけれど、そこそこ熱いはずのお湯に手を突っ込む時の動作には微塵の迷いもない。言われてみれば確かにそう……いやいや、それにしたって限度はあるって。
 渋る心境が顔にも出てしまったようで、爆豪あいつはまた“イラッ”という音が聞こえてきそうな勢いで顔を歪め――そして小さく吐き捨てた。

「クソが……ウォーミングアップになってねえ」
「……?」
「……いいからもっとエンジンふかせ・・・!てめェがどうなろうと知ったこっちゃねえがなァ、現状俺が迷惑被ってんだよ!」

 がなりながらもドッカンドッカン、ツンツン頭の頭上で幾度も黒煙が上がる。爆音と共に降り注ぐ言葉がちくりと胸を刺した。危ないからとかなんとか理由をつけて、わたし自身無意識のうちに“個性”を使うことに対して尻込みしているのかもしれない……と、そんな思いが脳裏を掠めてしまったからだ。
 同時に、キレ散らかしながら爆破を続ける爆豪あいつの姿に不思議な違和感を覚える。わたしのせいで特訓にブレーキが掛かり気味なので、怒り心頭なその態度も当然なのだけれど――寧ろ足りない・・・・ような気がしてしまうのだ。邪魔になると判断したなら、わたしなんてその辺にほっぽって、自力で薪に着火なり何なりして自分一人の特訓に切り替えても良さそうなもの……というか、少なくとも昨日の爆豪こいつはそうしていた。森でまともに戦えなくなったわたしに“邪魔だ”ときっぱり告げて、ぐるぐる巻きにした挙句蚊帳の外に放り投げたのだ。それがどうしたことか、今はガミガミ怒りながらもわたしをどこかへ押しやろうとはしない。
 それが何だかとても――怒らせている身でこんな言い方もどうかと思うのだけれど、ものすごくむずむずする。なんだろうこの感じ。

「――南北」

 悶々としているうちに、気怠げな声がわたしを呼んだ。振り返った先、開けた特訓場の入り口あたりには声の主である相澤先生が立っていて、更にその向こう側に大きな影――隣のクラスの担任、筋骨隆々なブラドキング先生の姿が見える。彼の後ろからは、まだ眠たげに目を擦るジャージ姿の生徒たちが続々と姿を表していた。どうやら遅れていたB組のみんなが合流してきたらしい……というか、A組が相澤先生にやたらと早く叩き起こされただけのような気もするけれど。

「ここからはB組が合流する……おまえの特訓も始めるぞ。轟、着火してやれ」
「――……、ッス」

 少し離れた場所でドラム缶風呂に浸かっている轟くんが額の汗を拭いながら頷いて、わたしにその場から離れるよう目配せした。結局大した役にも立たないまま終わっちゃったなぁ――手招きする相澤先生の方へ駆けつつ、そんな思いを胸に背後をちらりと振り返る。
 轟くんが伸ばした炎が地を這って、爆豪あいつの足元に組まれた薪に火を灯す。けれどその様子には目もくれず、爆豪あいつはわたしの方をじっと睨んで。
 そして、何も言わずに目を逸らした。

「(……?)」

 やっぱり何か変だ。何が変なのかは上手く言葉にできないまま、ただただ漠然とした違和感だけが残る。最近こういうことが――爆豪あいつの言動がどうにも腑に落ちないというか、妙に意味深に見えて気になる、みたいなことがよく起こるような気がするんだけど。

「南北」
「――はい!すみません!」

 再度わたしを呼ぶ相澤先生の声に我に返った。慌てて正面へ向き直り背筋をピンと伸ばすと、じとりとこちらを睨んでいた黒い目が一度伏せられ、そしてちらりと背後を見遣った。先生の後ろでは、B組の生徒たちを各々の特訓場所へ送り出したらしいブラド先生が腕組みしながら難しい顔で立っている。首を傾げるわたしに、相澤先生は端的に告げた。

「おまえの特訓はB組の生徒と合同で行う」
「合同……」
「今回は一人で取り組んでる奴が大半だが、“個性”の相性によっては一緒に特訓した方が効率がいい。葉隠と障子がその例」

 なるほど。辺りを見回して二人の姿を探すと、少し離れた岩場の陰に周囲を探る障子くんの姿があった。恐らく足音や息遣いを頼りに、目には見えない葉隠ちゃんの居場所を探っているところなのだろう――障子くんにとっては索敵の、葉隠ちゃんにとっては隠密のトレーニングになる、一石二鳥の特訓というわけだ。
 ということはつまり、障子くんにとっての葉隠ちゃんのような相手が、わたしの場合はB組にいるということなんだろうか。視線を前に戻すと、相澤先生は小さく息を吐きながらブラド先生の方に目配せした。

「……おまえには、彼と組んで特訓してもらう」

 頷いたブラド先生の背後、大きな体の陰になっていた辺りからジャージ姿の生徒が一人顔を覗かせる。少し気まずそうにしている彼の顔を見て――失礼極まりないのは重々承知しているのだけれど、わたしは完全に凍り付いてしまった。

 少し考えればわかることだったのかもしれない。
 この合宿中、まさに今表出してしまっている、わたしにとっての致命的な弱点・・・・・・。わたし自身が痛感しているそれを、相澤先生がみすみす見逃す訳がない。
 そして――その弱点を叩き直すのに一番手っ取り早い方法がこれ・・だということも、頭では理解できる。

(理解、できても――)

 心と体がついてきてくれるかどうか。
 珍しく静かなまま、窺うようにこちらを見る鉄哲くんの顔から目を逸らせないまま、わたしは小さく息を呑んだ。

「よォ……昨日ぶりか?」

 対して鉄哲くんはやはり若干尻込みしているようで、微妙にわたしと目を合わせようとしない。とてもそんなタイプには見えないのだけれど、何やらわたしに遠慮しているような様子だ。体育祭以来失礼な態度を取りまくってしまっているし、現に今も多分露骨にアレな顔をしてしまったと思うので、敬遠されてしまっても当然といえば当然だった。
 これ以上の無礼はよくない、せめて今くらいはちゃんと返事しなきゃ――そんなことを思いながら止まっていた息を慌てて吸い込むと、わたしが何か言うより早くブラド先生の大きな手が彼の背中を思いっきり叩いた。バシンという乾いた音と「いってェ!?」という鉄哲くんの悲鳴が同時に響く。悶えながら背中を摩った彼は、それでもすぐに気を取り直し、今度はまっすぐわたしの方を見て姿勢を正す。どうやら活を入れるための張り手だったらしい。
 そんなやりとりを黙って見ていた相澤先生が、小さく咳払いをして話を戻す。

「一応理屈の説明をしておく」
「鉄哲――おまえの“個性”はA組の切島とよく似ているな。ならばおまえと奴の違い・・が一体何なのか、わかるか?」
「ハッ……俺も雄英に入った男。その程度もわからねェ馬鹿と侮ってもらっちゃ困るぜブラド先生――そいつは当然、俺の方がギラギラしてるってトコでしょう!!」
「(馬鹿だ……)」
「馬鹿だな」
「面目ない……」

 わたしが胸の内にしまっておいた言葉をばっさり告げた相澤先生に謝りながら、今度はブラド先生が大きな咳払いで場の空気を誤魔化して、自信ありげに太陽に翳された鉄哲くんの鋼の腕を指差した。

「おまえと切島の違い――それはおまえがただ硬くなるのではなく、金属になれる・・・・・・という点だ!」
「大体正解ッスね!」
「(ある意味……!)」
「もうそれでいい――いいか!金属になれるということは、ただ硬化しただけの人体では持ち得ない強みが得られるということだ」
「例えば熱。金属なら、人間の体では耐えられない高温や冷気にも耐えられる」

 補足を添えながら相澤先生がちらりとこちらを見る。なるほど、確かに切島くんはどんなに硬く鋭くなってもあくまで肉の体で、火の中に飛び込めば火傷をするし、寒さに凍えてしまえば動けなくなる。けれど、金属人間は炎に捲かれても火傷しないし、氷に触れ続けても変わらず動くことができる……ということなんだろう。

「だからわたしの“個性”……ってことですか?」
「そうだ。磁力による負荷を受けながら“金属化”を保ち続けることで“個性”の持続力向上、同時に熱への耐性を獲得……おまえの方も磁力と熱を同時に鍛えられる」
「まさにおあつらえ向きという訳だな」
「ただ――体育祭の前例があるんでね」

 相澤先生が、今度はしっかりとわたしの方に向き直った。黒歴史を持ち出されて心臓が縮んだわたしとは対照的に、先生は相変わらず何を考えているのか読み取りにくい無表情で淡々と述べる。

「無理強いはしない。個別にできない内容でもなし、おまえが無理だと判断するなら合同での訓練は取りやめる」
「……!」
「鉄哲の方は、おまえの調子の悪さも込みで事前に了承してくれている……どうするかはおまえが判断しろ」

 最後に「10分やる」とだけ告げて、相澤先生は踵を返す。思考時間をわたしに委ね、一旦先程までのように全体の監督へ戻るつもりのようだった。そんな黒尽くめの後ろ姿を横目に見送りながら、ブラド先生の方は鉄哲くんの少し後ろの方で変わらず腕組みしたままこちらを見守っている。
 わたしは、全身を強張らせたまま微動だにできずにいた。先生はあくまで判断をわたしに委ねると言った――自分の心身が荒療治に耐え得るかどうか、一番理解してるのは自分自身。だから己で判断しろと、そう告げたのだ。
 心臓が強く脈打つのを感じた。当然やるべきだと、心は激しく訴えている。今まさにわたしに必要な訓練はこれだ。克服にあたって、鉄哲くん以上にぴったりな相手は他のどこにも居ないとも思う。断る理由なんかない。
 けれど反面、頭の片隅には酷く怯えている自分も居た。“個性”の制御が不安定な今、ある意味その原因とも言える彼を相手に――果たして、自分の力をちゃんと御しきれるだろうか。彼を絶対危険な目に遭わせないと、約束できるだろうか。
 何よりも怖いのはそれだ。鉄哲くんは、ただ似ているだけの、なんの関係もない赤の他人なのに。まかり間違って酷い目に遭わせてしまったら、何と謝ればいいのかわからない。

「……、」

 押し黙ったまま思案することほんの数十秒。早くも思考は堂々巡りに入りかけていて、天秤にかけられた二つのどちらを取るべきなのか、わたしはすっかり決めあぐねてしまっていた。
 ――その時。

「なァ、南北よ」

 同じく黙ったままわたしの様子を見守っていた鉄哲くんが不意に口を開いた。顔を上げると、こちらを真っ直ぐに見据えるゴリゴリの四白眼と視線が交わる。

「やろうぜ」

 シンプルな言葉だった。目を丸くするわたしに向けて、彼は迷いのない素振りで言う。

「相澤先生の言った通り――痛い目見るかもしれねえってこたァ、俺は既に承知の上・・・・よ」
「――!」
「おまえと組んでの特訓になるって、昨日の段階で聞かされてんだ。どうやらおまえにはおまえの事情・・があって、俺の“個性”に過剰反応しちまうらしいってことも」

 まさかうちの家族の話を知らされているんじゃ――と一瞬身構えたけれど、どうやらそっちは杞憂らしい。口ぶりからして、わたしと組んでの特訓は“個性”の暴走のような危険を伴う可能性がある、という話を事前に聞かされていた感じだろうか。

「確かにおまえの“個性”はすげえ……一度身を以て感じた俺自身が一番よくわかってる。だが、敢えて言わせて貰おうじゃねェか――あの勝負、俺もおまえも負け・・だった!違うか!?」
「……えっ」

 次いで放たれた思わぬ言葉につい声が漏れる。あの勝負といえば、やっぱり例の体育祭のアレのこと……しかないよね。周りのみんなも何となくあの試合には触れないようにしている雰囲気があったし、わたしもその勝敗を改めて蒸し返されるとは思ってもみなかったけれど。
 鉄哲くんは目を逸らさず、一音ごとに鋼のような力強い重みを纏わせて言う。

「俺はあの日、試合に勝って勝負に負けた……手も足も出ず地面に這いつくばってただけなのに、運良くおまえが倒れたから勝ちを拾っただけだ。おまえはおまえで、勝てるはずの試合をみすみす取りこぼした」
「……そう、かもね。試合前なんか、“負ける要素がない”って言われてたのに」

 一緒にトーナメント表を見上げた心操くんの横顔を思い出しながら頷く。わたしと鉄哲くんの“個性”の相性は、ある意味最高・・と言ってもいい。彼が“個性”を使おうとする限り、わたしの“個性”に絡めとられてしまう――どのような試合運びになったとしても相手の“個性”を封印できる、そういうカードの筈だった。
 けれど――わたしは負けた。自分自身の心に負けて、使えるはずの力を必要十分に発揮できなかったから。
 わたしの言葉に頷いて、鉄哲くんは胸の前で拳を強く握った。再び光沢を帯びた銀色の腕が、陽光を鈍く照り返して輝く。

「ならばどうする!?負けっぱなしでいいだなんて腑抜けたこたァ言わねえよな!?」
「……!」
「俺は御免だ!いつかおまえともう一度戦って、あの日の雪辱を晴らしたい!そのためなら――おまえに負けない強さを手に入れられるってんなら、今見る痛い目も上等よ!」

 輝く握り拳が、今度はわたしの目の前にずいと差し伸べられた。

「やろうぜ南北火照――遠慮はいらねえ、そもそもおまえだけの問題じゃねえ!これは俺たち二人・・・・・にとっての、負けられねェ闘いってやつだろ……!」

 鋭い眼は熱鉄のように燃えている。力強い言葉に圧倒されながら、わたしは自分の浅ましさをほんの少し恥じた。
 彼は、わたしなんかよりずっとずっと本気だった。今日まであの試合のことを考え続けて、自分の弱点と向き合って、乗り越えるための覚悟だって決めていたんだ。
 わたしはそれに応えなければならない――ううん、応えたい。わたしも彼に負けないように――忌々しい過去の記憶に、そして惨めなあの日のわたしに膝を屈しないために、目を逸らさずに、今よりもっと強い自分でありたい。

「――やろう」

 やらせてほしい、鉄哲くんさえ良ければ。そんな言葉を添えつつ、わたしも右手をぐっと握り込み、目の前に差し出された鉄の拳に自分の拳骨を合わせる。ごつん、という鈍い感触とともに触れ合ったその先で、真剣にこちらを見据えていた鉄哲くんの顔がみるみる不敵に笑んでいく様が見えた。

「っしゃあ!そうと決まればいつでも来いよ、熱だろうが磁力だろうが俺は膝をつかねェぞ!」
「あっいや、でも一応相澤先生に見てもらいながらじゃないと流石に……!」

 即決即断、あっという間に全身をガチガチに固めて身構える鉄哲くんを嗜めつつ辺りを見回す。話が固まりそうな気配を察知したのか、離れた場所に向かったと思っていた相澤先生はいつの間にかブラド先生の数歩後ろ辺りまで戻ってきていたらしい。とにかく騒がしい鉄哲くんの方を若干鬱陶しげに見遣る彼に、普段は怖い顔のブラド先生が珍しく笑いながら耳打ちしていた。

「二分で決まったな」
「……合理的で結構」

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