ある神父A氏の主張(青の祓魔師) | ナノ
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 教会の扉までたどり着いたメフィストはやっとついたと声を絞り出した。こんなに坂や階段を上らされたのは久しぶりだ。いつもなら鍵を使って出入りするため、基本的に移動に労力は使わないことが多い。現代人は車や電車などの文明の利器に頼りすぎて運動不足の人が多いとはよく聞くが、鍵に依存している自分はそのかなり上を行っているかもしれないとため息を漏らした。
 とにかく、今は椅子に腰を落ち着けたい。教会の中に入れてもらって少し休憩させてもらおう。アモンは気が利く男だから、お茶でも用意して待っていてくれているはずだ。それを飲みながら今日の訪問の理由を話そう。
 帽子と外套を脱いで教会の扉を叩く。エボニー製の質のよい扉は小気味いい音を響かせた。二三回ノックをして主が迎え入れてくれるのを扉の前で待つ。しかし、いくら待てど暮らせどドアノブが捻られドアが開く気配が全くない。一向にあけられないドアの前でメフィストはどうしたのだろうと首をかしげた。いつもなら五秒とたたずにあけてくれるというのに。急に予定でも入ったのだろうか。いや、しかし用事が入ったらアモンは必ず連絡をくれる人間だ。用事が入ったという連絡はなかったんだが、と思いながらメフィストは愛用の携帯を弄った。
「……誰ですか?」
 アモンから届いた最新のメールを念入りにチェックしていたメフィストの耳に誰かの声が届く。突然かかった声が誰のものなのか一瞬分からなかったが、アモンの声だと理解するとなんだやっぱりいたんじゃないかと顔を上げた。
「……」
 顔を上げた瞬間に絶句する。何か、とても見てはいけないものを目にしてしまったようだ。少しだけ開けられた扉と長い髪の毛の間から真っ黒い瞳がこちらを見ている。まるで感情を持っていないそれはホラー映画さながらだ。確かにここは年季のある建物ではあるが、呪われているという噂は聞いたことがない。
「アモン……? どうかしたのか?」
 尋常じゃない様子にメフィストはやっとそれだけの声をかける。扉の暗がりの中で口を開く気配がしたがすぐに消えた。言いたくないのだろうか。
「いいえ、別に何も。それよりお待たせしてしまってすみません、どうぞ中へ。お茶を用意していますよ」
 軋みながら扉がゆっくり開く。差し出された腕は中へ入るようにと促す。入り際にひどく不機嫌そうな面持ちのアモンを見て、果たして自分は生きて帰れるのだろうかと唐突に不安になった。

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