お題2(ほのぼの・ハッピーサマーチルドレン) | ナノ
08
 一人で過ごす、というのには慣れているはずだった。自分の家は父親、母親ともに仕事一筋で仕事で家を空けることが多くあった。いつから、そうだっただろうと思い返すと多分、自分が幼稚園に行き始めてだったように思う。幼稚園などに言っている間はいいが、それ以外は当然一人で。ちょうど物心がつき始めた頃だったし、初めのほうは不安でたまらなかったが、毎日そうであると、ああ、もう仕方が無いかと思うようになった。だから、今日という日のたった半日を一人で過ごすことなど何の問題も無かったはずだったのだ。

******
 
 今日は、キッドとキラーの通う登校日らしい。高校生でないフォードは当然二人について行くわけにはいかず、家で留守番をすることになった。キッドは夏休み中に学校なんかには行きたくないとごねていたが、どうしても今日は行かなくてはいけない日であると、結局キラーに引っ張られて行ってしまった。出掛けにキラーが一人で大丈夫かとしきりに心配していたが、大丈夫だと答えておいた。確かに二人がいなくなるのは不安ではあるが、一人で過ごすことにはもう慣れっこだ。しかも、今日は一日中ではなくたったの半日である。どうということは無い。だから、フォードは笑顔で二人を送り出したのだ。
 しかし――。

「……」

 ドアが閉まり、二人が自分の前から消えた瞬間、胸の辺りが冷たくなったのを無視することが出来なかった。心臓が小さく早く脈打つ。まるで、突然この世界でたった一人になってしまったような錯覚を起こし、唇をきつくかんだ。

「大丈夫……」

 自分に言い聞かせるようにつぶやく。そうだ、大丈夫なのだ。これまでだって、一人で一日の大半を過ごしてきたではないか。暗示をかけるようにいい、目をつむる。もやもやと胸の中で渦巻く不安という感情に蓋をし、気持ちを落ち着かせた。

「なんでもないよ」

 そういって、フォードは悲しそうに笑った。

******

 キッドとキラーが出かけてから、いったいどれぐらいの時間がったのか正確にはわからなかった。何時間も経ったような気もするし、ほんの数分しか経ってない気もする。時計を見ればよいのだろうが、今何時かということを知ることにより、残された時間を知ってしまうのが怖く、どうしてもできなかった。とにかく、時間をつぶそうと、いろいろ一人遊びをしようとするのだが、どれもこれも面白くなくすぐに嫌になってやめてしまった。

「……」

 しゃべりかける相手もおらず、口を一文字に結ぶフォード。そういえば、今日は朝少し言葉を口にして以来、一言もしゃべっていない気がする。耳が痛くなるほどの静寂に苦しそうにうつむいた。蓋をしたはずの、もやもやとした物が胸からせりあがってくる。押し込めようと努力すればするほど反発するようにそれは大きくなっていった。

「うっ……」

 肥大し続ける不快な感情に、堪らず声を漏らす。どこか嗚咽に似た声は、悲しげに響いた。
 この気持ちは何だというのだろう。この、自身を物悲しくさせるこの気持ちは。不安というのが一番近いが、それとも違う。しばらく、混乱する頭で、納得のいく答えを見つけようと躍起になって考えていると、不意に悟ったようにああ、とため息を漏らした。
 この不安と少し違う感情は、きっと寂しいというものなのだ。あの、ドアの向こうに二人が消えた瞬間、胸のあたりが冷たくなったのも、いつも傍にいた二人がいなくなって寂しいと感じたからなのだ。
 フォードがそう、自分の中で納得すると、まるでその通りだと言わんばかりに一気に膨れ上がり、そして爆発した。胸から飛び出したそれは、体中を駆け巡り、精神を蹂躙し、神経を興奮させた。

「ふ……うえっ……」

 高ぶった感情は、涙となって表出する。瞼からあふれ出る涙をどうしても止めることができない。ぼろぼろと零れ続ける涙をその小さな手で懸命にぬぐった。早く、帰ってきて欲しい。できるなら今すぐ。その感情が余りにも身勝手で、相手に迷惑をかけることを重々承知していたが、もう止まらなかった。早く会いたい、あの二人に。この流れ続ける涙だって、あの二人が帰ってきてくれればすぐ止まって、笑い話にできるのに。あの、大きな手が乱暴に頭をなでるだけで、寂しいだなんて感情はすぐどこかへ行ってしまうというのに。
 すすり泣くことさえかなわなくなったフォードが泣き声を上げようとすると、玄関のほうから物音がする。どん、と床に荷物が置かれた音がしたと同時にフォードは玄関に通じるドアに走った。
 勢いよくドアを開けると、驚いたようにこちらを見るキッドとキラーの姿が目に入る。二人が帰ってきたと理解した瞬間泣きながら駆け寄った。

「う……えっ、えっ。おがえりなざい。ぐすっ」

 ぼろぼろと涙を流すフォードを見てキッドとキラーは絶句する。一緒に過ごすようになって2週間ほど経つが泣いているところを一度も見たことが無い。いつも笑っているという印象があるフォードが、今は顔をくしゃくしゃにして泣いている。どうしていいか分からず動揺しているとすがりつくようにして、急にキッドに抱きついてきた。しゃくりあげながらキッドの服を握り締める。

「お帰り、なざいっ。ひっく……寂しかったよぉ」

 搾り出すようにそういってフォードは服に顔を埋める。服に涙がしみこんでいくのを感じながら、頭を撫でる。すると、手に頭を押し付けるように摺り寄せてきた。もっと撫でてくれという意味なのだろう。その気持ちを汲み取りゆっくりと、フォードの気持ちが落ち着くようにと撫でる。そしてそのまま開いているほうの手で抱き上げるとキラーに目で合図をしてリビングに入っていった。
泣きべそ
(ずっとずっとそばにいて!)

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