お題2(ほのぼの・ハッピーサマーチルドレン) | ナノ
01
 ひんやりとした心地よい空気が部屋を満たしている。クーラーによって冷やされた床に寝そべりながら、キッドは外に広がる光景を他人ごとのように見ていた。
 アスファルトを焼くように照りつける日の光。こんなに日差しが強い中、キラーをスーパーに向かわせたのは少々酷だっただろうか。だが、彼がスーパーに向かうはめになったのは、キラーがじゃんけんに負けた所為であって、キッドの所為ではない。言い出しっぺはキッドだが、両者合意の上だ。問題は無い。
「そんなに気にする程の事でもねぇか……」
 仮にキッドが行くはめになったとしてもキラーは心配しないはずだ。何を大して気にする必要も無いようなことを気にしているのだろう。
「……」
 何となく面白く無くなってきたキッドは横向きに大勢を直す。温くなってきた床を避けるように体をよじるとキッドはゆっくりと目を閉じた。

******

「キッドのお兄ちゃん?」
 キッドが眠り始めて5分ぐらい経った頃だろうか。隣の部屋でひとり遊びをしていたフォードがやってくる。遊ぶのに飽きたのか、寝ているキッドの顔を覗きこむ。
「寝てるの?」
 顔の前で手をひらひらさ
せる。ひとしきり手を振ってキッドが本当に寝ていることを知ると寂しそうな表情になった。
「なんだー」
 一緒に遊びたかったのか、本でも読んでほしかったのかは分からないが、少しだけふてくされたような顔をする。一瞬だけ唇を尖らせ、ふんと鼻息を漏らしたが、それ以上不機嫌であるということを態度で示そうとはしなかった。フォードがキッドにかまってほしいと思ったのはフォードの都合である。それはフォード自身の勝手な都合だ。私情を挟む突発的な都合ほど相手に迷惑をかける物は無い。少々子供らしさにかけるが、それをわきまえているフォードは仕方がないとあきらめたような顔をした。
 しかし、一緒に過ごせる事を期待してきただけに、次どうするかというのがまったく思いつかない。キラーはついさっきスーパーに行くといって出かけて行ったばかりだし、今更一人遊びに戻るのも何となくイヤだ。家にある読める本は大半を読んでしまったし、第一今はそんな気分ではない。一気に暇になってしまったとぼんやり部屋の隅を眺めていると、くしゃんと小さなくしゃみがひとつ聞こえてきた。なんだ、と思って音がした方向に視線を向けると寝転がっているキッドが目に入った。くしゃみの主がキッドだと理解すると大変、と一言漏らしさっきまで遊んでいた部屋へと駆けていった。
 大きな音を立てないようにゆっくりとドアを開けて中へと入り、押し入れの前まで走る。ふすまの取っ手に手かけ空けると、下の段を物色した。やがてお目当てのものを見つけだすと、また急いでキッドのいる部屋へと戻っていった。
「お布団かけないと風邪ひいちゃう」
 キッドを起こさないように慎重に、かつ迅速に手に持った大きめの青いタオルケットを広げる。顔にかからないように注意しながらゆっくりと被せていく。このフォードの一連の動作をキラーが見たらどちらが年上か分からないと苦笑いをしていたに違いない。
「よし!」
 やり遂げた、という風にフォードは満足げな顔をする。端から見るとほほえましいような、情けないようなという行為をされていることなど露知らず、キッドは気持ちよさそうに寝入っていた。
「んー」
 キッドに布団をかけたことに満足したはいいが、これから暇であるということは一ミリも解決に至っていない。いくら考えてもこれからの暇をつぶす手段が思いつかなかったフォードは自分も寝てしまおうとその場に寝転がった。

******

「くしゅっ」
「……あ?」

 キッドの意識が眠りの浅いところをさまよっていると、背中のほうから空気が小さくはじけるような音が聞こえた。いきなり聞こえて来た音に目を覚ましたキッドは、寝ぼけ眼でゆっくりと上体を起こした。布擦れの音がして、体から青色の何かが落ちる。最近見る機会が多くなった青空を模したタオルケット。この間キラーと買出しに行った時フォードに買ってやったものだ。相当気に入ったのか毎日これに包まって寝ていた。その、フォードお気に入りのタオルケットがなぜここにあってしかも自分にかかっているのだろう。

「くしゃっ!」

 いまいち状況が理解しきれていないキッドが眉間にしわを寄せていると先ほどよりも大きなくしゃみが聞こえる。なんだ、とそちら側を見ると手を伸ばせば届きそうな距離にフォードが寝ていた。寒いのか猫のように丸まって寝ている。

「何でそんな所で寝てるんだお前」

 布団も何も敷いていない冷たい床の上で縮まって寝るフォード。どうせ寝るなら、さっきまでキッドがかけていたタオルケットで一緒に寝ればいいものを。そう思ってキッドは片手で些か乱暴に引き寄せる。そして、引きずり込むようしてタオルケットの中にフォードの体を入れると、大きなあくびを一つ漏らしまた、その場に寝転んだ。
 再び、うとうととし始めた意識の端で、フォードが同じ布団に入らなかった理由をぼんやりと考えた。多分、他の子供のようにただ眠たかったらそこで寝たとか、そういう単純な理由ではないと思う。

 「……あぁ、そうか」

 今のフォードは、まだ甘えるということが出来ないのだ。両親から、甘えることを許されなかったフォードは、そういうことをしてもいいということすら知らないのだ。

 「ったく馬鹿野郎が……」

 キッドはそう吐き捨て、乱暴に頭をかくといまだ寒そうに眠るフォードの体をもう少しだけ引き寄せ、もうすぐ帰ってくるはずのキラーに起こされるまで惰眠をむさぼることにした。

******

「キッド、フォード。今帰ったぞ」

 やっと帰ってきたキラーが、ガサガサとビニール袋を鳴らしながら、二人がいる部屋に入ってくる。どこのスーパーまで行ってきたのか、随分と遅い帰宅である。喉を伝う不快な汗を拭い、荷物をおろす。そして、仲良く寝ているキッドとフォードをみて小さく笑った。

「……少し、買い物しすぎたか」

 待ちくたびれたようにリビングの床の上で寝息を立てている二人に歩み寄り、覗きこむ。どちらともなく寄り添いあうキッドとフォード。こうやって見ると本当の兄弟みたいだな、と独り言を言いながら買ってきたものを片付ける為に、部屋を後にした。
昼寝
(ゆっくりお休み!)

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