お題1(花言葉) | ナノ
 どうしようもなく、あの人を殺してしまいたいと 思う機会が増えた。自分はあの人の部下なのに、 私はあの人に刃を突き立ててしまいたいと、思う。 この感情は、普段言う事を聞かない主が憎くて生じたとかいう、単純なものではない。むしろ、逆の感情に影響されたものである。そう、私は彼が愛しくてたま らないのだ。
 そこで私ははたりと考える。どうして、憎くも無いのに殺してしまいたいと思うのだ。普通、殺したいという感情は憎いとか恨めしいとかという、負の感情に影響されるものなはずだ。まあ、中には私の主のようにただ楽しむだけに殺したいという、少々逸脱した理由で人を殺める人間もいるから、須らくとは言い切れない。しかし、多くはそうであるはずなのだ。だというのに、私という人間は真逆の感情で殺そうとしている。何故だ。

 しばらく考えて、ああ、と心の中で嘆声を漏らす。そうなのだ。私は、私という人間は。

(好きだから殺めてみたいのか、)

 愛しいから殺したい。この感情は他の誰かと共有する事の出来ない、私だけの感情だ。いや、もしかしたら、彼なら分かってくれるかもしれない。だって彼は愛している人を引き裂くのは好きだといった。だとしたら、彼は私に素直に殺されてくれるだろうか。いや、きっと殺されてくれる。彼もとても楽しそうに死んでくれるはずだ。そう、確信めいたものが浮かぶ。無意識の内に、戦場で浮かべる、あのきみの悪い笑みを口の端にはいた。口の中で笑い声が弾ける。

 抑えてきた感情が表に出始めたのを感じた私は、急いでその情にふたをした。これ以上その事について考え続けると、今すぐ実行してしまいそうだったからだ。うきうきと走り出してしまいそうな体を抱え、寝転がる。
部屋の片隅においてある私の武器を見て、私はいつまで理性的な生き物でいられるのだろうと思いながら、私は目を閉じた。


その夜、私は主であるあの男を、殺す夢を見た。

蘇芳を食む。

4/6:花蘇芳(裏切り・謀反)
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