お題1(花言葉) | ナノ
 私が颯爽と犯人を言い終えたまではいいが、直後、犯人はさっと踵を返して逃げていってしまった。その場にいた者が慌てふためき、警察が急いで逃亡を図った犯人を追いかけて階段を何段か下りた瞬間、こともあろうか親友である一人の男、クラウンが二階の窓から下階へと飛び降りていった。その行動の意味がわからずあっけに取られていると、続いて下から何かのつぶれるような音とガラスの割れる音、とにかく何かが大きく破壊されたようなそんな盛大な音だった。
「クラウン!?」
 聞こえた騒音によってわれに帰った私があわてて窓辺に駆け寄り覗き込むと、無残に破壊されたパトカーが一台と、逃げた犯人を捕まえて引き倒している姿が目に入る。そこまで見て、ああ彼は犯人を逃がさないために飛び降りたのだと知った。確かに、階段を下りるよりは、はるかに早く追いかけることが出来るが、なんと危ないことだろう。下にパトカーがあって窓から地面への高さがあまりないにしても無謀だ。当たり所が悪ければ死んでしまう。
「全く……」
 あまりにも無謀な彼にため息をつきながら、は急いで部屋を出た。
 私が一階に到着すると、すでに犯人の引渡しは終わっていた。別のパトカーの後部座席に犯人をのせ、それに続くようにして警官二人の警官が乗り込む。定員ギリギリの所まで乗り込んだパトカーが発進すると、クラウンはこちらに気づいたように振り返った。
「やあ、エルシャール」
「やあ、じゃないよ全く。君は無謀なことばかりする」
 私はいつもより少しだけ強めな語気で非難めいた言葉を口にする。人に難を打つのは好きではないが、今回ばかりはせねばなるまい。
「無謀?」
 私の言葉を聞いて、クラウンは不思議な顔をして首を傾げた。まるで何を訳の分からないことを言っているんだとでもいいたげな表情だ。
「さっきの、飛び降りの事を言っているのかい」
「そうだよ」
 非難されている部分をやっと理解したクラウンは意外そうな顔をする。それからややあって、肩をすくめた。
「無謀なことをしているつもりはなかったんだけどね。いけると思ったからやってみたんだ。私はちっとも無謀だなんて思わなかった」
「そうだとしても、私から見たら十分無謀だったよ……。頭が追いつかない程に驚かされた」
 そういって、 愛用のシルクハットを目深にかぶり窓の向こうに彼の体が消えて行ったときのことを思い出す。あの時は驚きすぎて、全く恐怖を感じなかったが今改めて思い返すと途方もなく恐ろしい。あの後もし、彼が死んでしまっていたらと考えると胸が詰まる思いだった。
「私はもう、友人を失うなんて事は嫌なんだよ、クラウン」
「……わかったよ。わかった。悪かったよ……今度から無茶はしないよ」
 私がそういうとクラウンは、心底ばつの悪そうな顔をする。形のいい眉を八の字にし、塩をかけられた菜っ葉のようにしゅんとなった。そして、うつむくと、ごめんなさいと小さく謝った。

怒るのもまた、愛情である

5/8:芍薬(怒り)
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