お題1(花言葉) | ナノ
 絶体絶命というのは、今のような状況のことなのだろうと、私はぼやいた。目の前には大勢の悪漢、道は袋小路で後ろは壁、そして私の背中にはかの有名な考古学者、エルシャール・レイトンを背負っている。あっちもこっちも障害だらけで身動きが取れない。まさに八方塞である。どうしようかと頭の中でこの状況を打破する方法を考えてみるが、どれもうまくない。いつもなら、腐るほど浮かぶだろうに今日の私はどうしたというのだ。
「ははっ……」
 あまりに下らない質問過ぎて思わず自嘲してしまった。どうした、と聞くまでも無い。ただ、純粋に動揺してしまっているのだ。背に背負っている友人の状態に。
 今まで彼とはさまざまな修羅場をくぐってきたが、こんな状態になったところを見たことが無い。かろうじて息はしているが、完全に昏睡状態だ。露出している肌に浮かぶ傷や打撲痕も酷い。余裕が無くて頭の傷までは確認していないが意識を完全に手放している所を見ると強かに頭を打たれたに違いない。これは、素人目に見てもかなり重傷だ。早く病院に連れて行かなくては危ない。
「くっそ……」
 命にかかわるのは分かりきっている。しかし、目の前にいる悪辣な男達がそれを許してくれるとは到底思えない。男達は、私達を殺す気でいる。だとしたらここで勝手にのた死んでくれた方が幸福なはずだ。もっとも、そんな幸福を奴らにくれてやる気なぞ少しもありはしないが。
 やはり、この状況を脱却するためにはこちらから何かしらのアプローチを仕掛けるしかないようだ。何かしらのアプローチといっても、選択肢がそれほどあるわけではない。しかも、そのどれもが最悪だ。話し合いで解決できるならいくらかましだろうが、そんなことかなうはずも無い。
 平和な解決方法が無い以上、結局はあっち側がやってきたことと同じことをしてやるしかないのだろう。つまりは、暴力の沙汰だ。体力にはそこそこ自信はあるし、武術は少しはかじっているが、相手は多勢に無勢だ。今もっている武器になりえるものを駆使してもどこまでいけるだろうか。全く予想がつかない。脳内で何度か様々な条件を加えながらシュミレートしてみるが、完全な想像をすることはかなわなかった。
「……」
 こうやって自分が悩んでいる間にも、私の友人の命は終わりに向かって歩き続けている。悩んでいる時間すら惜しい。
「仕方が無い……」
 悩む暇も無いのであれば、行動に移すしかない。ここまできたら、後はもうがむしゃらに相手に向かっていくしかないだろうと私はため息を漏らす。この後、いろいろやりたい事がたくさんあったが、仕方があるまい。全部あきらめることとしよう。
 背負っていた、友人を下ろすと床に横たえる。体になるべく負担がかからないような体勢に直すと上着をかけ、いつも持ち歩いている工具を取り出す。両手に馴染むその感触を確認しながら、男達に向き直った。
 ゆったりとした動作で工具を構え、大きく息を吸う。吸い込んだ息を肺にため、声と一緒に吐き出した。狭い路地に獣の咆哮(ほうこう)に似た声が響く。空間を走っていく自分の怒声を聞き、私は男達に向かって走っていった。

例えその結果が死だったとして

1/10:カランコエ(貴方を守りたい)
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