森の奥に見つけた廃墟。
ここなら誰も来ないだろうと思い、隠れることにした。


コツコツ…


足音が、やけに響く。


「…っ…この臭いは…」


しばらく歩いていると、ひとつの部屋にたどり着いた。

どうやらこの廃墟は学校だったらしく、その部屋には“校長室”と書かれたかなり古びたプレートがぶら下がっていた。
その校長室からは、この島に来て何度も嗅いだ、鉄の錆びたような臭いがした。
俺は、恐る恐る校長室の扉を開けた。


「…っ…!?」


ギィー…という音と共に、目の前に広がった光景に、俺は一瞬息が止まった。


「…血…」


部屋の中は、壁も、床も、机も、椅子も、全てが真っ赤に染まっていた。


「?…誰か、いる…?」


目の前に広がった光景に、呆然と立ち尽くしていると、隣の部屋に続くのだろう扉に、真っ赤な手形のようなものを見つけた。

きっとあの部屋の中には、この部屋を真っ赤に染めた人物がいるのだろう。
死体なんて見たくない。
だけど、あの扉を開けなければいけないと、俺の中の何かがそう言っている。

俺はゴクリと唾を飲み込むと、赤い手形のついたその扉をゆっくりと開けた。


「!?…う、そ…」


扉を開けると、血の臭いが一層酷くなったけれど、そんなもの気にしている場合じゃない。
部屋の真ん中、真っ赤な血の海に倒れていたのが、俺のよく知った人だったから。


「…あ…とべ…さん…?」


よく知った人、それは…テニス部の部長であり、生徒会長であり、俺の恋人でもある跡部さんだった。


「…誰が…こんな…ことっ…」


俺は倒れている跡部さんに近寄ると、ゆっくりとその体を抱き締めた。
跡部さんの体は、いつものような暖かさもなく、抱き締めると少し速くなる心音も聞こえてこなかった。


「…跡部さん…っ!」


ジャージが、まだ固まっていなかった跡部さんの血で赤く染まってゆく。
それでも、俺は跡部さんをきつく抱き締めた。

どうして跡部さんが死ななきゃいけなかった?誰が、なんの為に跡部さんを殺した?
そんなことばかりが頭の中をグルグル回る。

どうして神様は、こんな残酷な事を俺たちにさせるんだろう。




目覚めない恋人
冷えきった恋人の体をきつく抱き締め、ただただ涙を流した。


END



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