あの日からちゃんと理解していたつもりだった。
あの人にはもう、会えないんだということを。
それでも、またあの人に会えることを祈ってしまう。
それが、あの人たちに対する裏切りだとわかっていても。



「…今日で3日…だね…」


ポツリと、鳳が呟いた。
その声には覇気がなく、ちらりと盗み見た顔は、目の下にクマが出来ていて、あまり寝ていないことが直ぐにわかった。


「…あぁ、そうだな…」


鳳だけじゃない。
テニス部全体…いや、氷帝学園全体が活気を失い、どんよりとした空気を纏っていた。
男子テニス部のレギュラーと準レギュラーの3年生がBR法に選ばれた日から3日、ずっとこの状態だ。


「…ねぇ日吉…宍戸さんに帰ってきてほしいって思うのは…いけないことなのかな…」

「……」

「…まだ、1年なんだよ…?…宍戸さんに出会って、恋して…たったの1年しか経ってない…なのにっ…」


鳳の気持ちは、痛いほど理解できた。
俺も、鳳と同じ気持ちだから。
嗚咽混じりに宍戸さんの名前を呼ぶ鳳。
自分がもし感情を表に出せるなら、鳳のように泣き崩れるのかと考えてしまった。
そんな考えを払拭したくて、俯いていても眩しく感じる空を見上げた。
見上げた空は、俺たちの気持ちとは正反対の、雲1つない澄みきった青空だった。

そういえば、あの人は青空が好きだと言っていたな…。


「…向日さん…」


『俺さ、夕焼け空とかも好きだけど、青空が1番好きだな!』
『だってさ、青空が1番、高く感じるだろ?』
『いつか絶対、あの空を飛んでやる!』




目を閉じれば、満面の笑みを浮かべてそう言っていたあの人がくっきりと浮かぶ。
どこまでも、鮮明に。
…なのに、あの人にはもう、会えない。


「ひ…よし…」

「…鳳?」


あの人のことを思い浮かべていると、服の裾を引っ張られる感覚と、弱々しい鳳の声が聞こえた。
鳳の方を見ると、信じられないというふうに目を大きく見開いたまま、一点を指差した。


「あ、れ…っ」

「…?」


鳳の指差した方を見ると、もう会えないと思っていたあの人がいた。
あの人だけじゃなく、1人も欠けることなく、先輩たちが揃ってこちらに歩いてきていた。


「…なん、で…」


宍戸さん!と泣きながら駆けていく鳳の声をどこか遠くで聞きながら、俯いたままゆっくり歩いてくるあの人を見つめた。
離れていてもわかるほど痩せてしまった傷だらけの体。
ふいに、あの人が顔を上げて目があった。
その瞬間、自分でも驚くほどの速さであの人の元に駆け出していた。


「…向日さん…っ!」

「…日吉…」


近くで見れば見るほどあの人は痩せてしまっていて…。
ボロボロになった体を見ていられなくて、傷にさわらないよう、優しくあの人を抱きしめた。


「…向日さん…」

「…日吉…ただいま…」

「…お帰り、なさい…」

「うん」


ゆっくりと俺の背中に腕を回して、胸に顔を埋めたあの人の頭を優しく撫でながら、これは夢じゃないんだと実感した。


「…好きです、向日さん…」

「…うん、俺も好き」


いつもなかなか伝えられずにいた言葉も、すんなり喉を通って出てきた。
今までの分を埋めるかのように、何度も何度も愛を囁いた。

そのあと、跡部さんからどうして帰って来れたのか説明があった。
跡部さんたちも詳しいことはよくわからないらしく、誰かが命懸けで政府側に乗り込んだらしいというのを、他の生存者から聞いたらしい。

その誰かのおかげで、今俺の隣にはあの人がいる。
誰かもわからないけれど、本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。
またあの人と同じ時間を歩めるのだから。




同じトキを
(犠牲を払って)
(得たこのトキを)
(大切にしたい)
(そう、思った)


END



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