広大な敷地の中に、バラバラに放り出された俺たち。

見知らぬ土地、広大な敷地、始まった死のゲーム。
求める人に会える確率は、ほんの僅か。
それでも、俺は探さなければならない。
俺を好きだと言ってくれた…あの人を。


「…くそっ…」


極力物音をたてないように注意しながら森の中を歩く。
行く宛などない。
ただがむしゃらに、どこにいるかもわからないあの人を求めて歩く。

まだ放送であの人の名は呼ばれていない。
それは、この森のどこかであの人がまだ生きているということ。
それだけを支えに、ただひたすらあの人に会うためだけに歩く。


「…どこにいるんだよ…」

「誰がだ?」

「!?」


ボソッと呟いた言葉に、背後から返事が返ってきた。
慌てて振り返った俺の目に写ったのは、


「…あ…とべさん…」

「よぉ、日吉」


ゲームが始まってからずっと探していたあの人だった。


「ケガ、してねぇか?」

「…大丈夫です。…跡部さんは、随分ぼろぼろですね」

「ったく、心配ぐらいしたらどうだ」


あの人の顔や腕にはいくつか切り傷や擦り傷があった。
一応、これでも心配はしている。…うまく態度に出せないだけで。
あの人もそれをわかっているからなのか、優しく微笑んでくれた。


「…なんだか…」

「あん?」

「…いえ、なんでもないです…」


ここに来る前と何も変わらないあの人の態度に、今起こっていることは全部夢なんじゃないかと思った。
口から出そうになったその言葉は、今の状況から逃げているみたいに感じたから、グッと飲み込んだ。


「日吉」

「はい?」

「…お前に、会えて良かった」


突然真剣な顔になったかと思うと、そっと俺の頬に手を添えてそう呟いたあの人。
添えられたあの人の手は、信じられないほど冷たかった。

見た限りさほど大きなケガをしているわけじゃないのに、冷えきった手。
頭に、1つの予想が浮かんだ。


「跡部さん…まさか…毒を…?」

「…後追いだけはすんなよ」


小さく呟やかれた言葉は、俺の予想を肯定するものだった。


「…跡部さ…」

「景吾だ。…最期ぐらい、名前で呼べ」

「…っ景、吾…」

「それでいい」


そう言って笑ったあの人に、置いていかないでと告げようとした瞬間、あの人の体が傾いだ。


「危なっ…」


あの人が倒れないように伸ばした手に触れたあの人の体は、まるで氷のように冷たかった。


「あと…景吾、大丈夫ですか…?」

「…」

「…景吾?」


いくら呼びかけてもあの人からの返事はない。
体は、ぴくりとも動かない。


「…う、そ……やだ…置いていかないでっ……景吾…っ…」


腕の中のあの人は、本当にただ眠っているだけのようなのに…。

動かない冷たい体、返ってこない返事。
あの人はもう…還らない。


END



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